アラサーウィザード
もうすぐ日付が変わる・・・。
そしてこの部屋は、私と彼の二人だけ。
「・・・あ、日付変わったね・・・アンジュ、誕生日おめでとう。」
「あら、本当・・・ありがとう、ヴィヴ。」
「誕生日プレゼント、用意したんだ・・・。」
「まぁ、一体何をくれるの?」
「そろそろ・・・結婚を考えたほうがいいと思って・・・。」
そう言って彼が差し出して来たのは・・・。
『アラサー女の婚活の心得!』と書かれた冊子・・・。
「・・・『メテオフレイム』!!」
大きな爆音と共にヴィヴが吹っ飛んだ・・・。
当然の報いよ!誰がアラサーだ誰が!!
「まだ今年で29よ失礼ね!!!」
「だ、だってぇ・・・。」
あーもう!なんだってこんな奴と誕生日を迎える瞬間を!?
なんだってこんな日に残業なのよ!もー!嫌になっちゃう!!
「うわぁ!文章水晶打つの早いね!アンジュ!僕なんかまだ半分もできてない・・・。」
「もおおぉ!!手伝うからよこしなさい!!いくら二人共明日休みだからって!日付変わってんじゃないのぉ!」
「ご、ごめんよ・・・アンジュ・・・いつもありがとう・・・。」
このどんくさいのがヴィヴ、私の年下の幼なじみよ。
こんなのじゃなければ顔だけはいいし、ときめく所なんだけど。
そういえば自己紹介もしていなかったわね?
私はアンジュ=ウィザード、どこにでもいる魔法OLよ。
魔法OLが何かって・・・?魔法使いのOLに決まってるでしょ!
この世界ではね!魔法で全てが回ってんのよ!
魔法の水晶で文章打ったり、魔法の炎で料理をしたり!
街の灯りや生活家具も全部魔法で動いてるの!わかった?
・・・全く、何も知らない人間に物を教えるのは本当面倒だわ・・・。
「ねぇ、アンジュ・・・ここだけどうしてもわからないんだけど・・・。」
「あんたはねぇ!!!アンダーバーは緑魔力でUキー入力だって何度言ったらわかるのよ!!」
「ひえぇぇ・・・ごめんよぉ。」
入社して半年も経つのにこのやくたたず!!
文章入力魔力の使い方も知らずによくこんな会社にはいったわね!
「もぉ・・・出来たらさっさと帰るわよ!!ヴィヴ!!」
「あ、あぁん・・・待ってよぉ、アンジュ。」
ノタノタついて来て・・・見てるだけでイライラするわねこの男・・・。
とは言え幼い頃から私が散々いじめてるのが原因かもしれないのよね。
・・・だからこうして面倒見てあげてるわけだけれども・・・。
「ねぇ、アンジュ!月がすっごく綺麗だよ!」
「・・・馬鹿ね、確かに綺麗だけど・・・満月は明日よ?・・・まぁ日付かわってるから今日だけど。」
「もっと、綺麗になるの?」
「当然よ!今晩は月を見ながら浴びるほど酒を飲んでやるわ!!オーッホッホッホ!!!」
「さ・・・寂しい誕生日だね・・・。」
「あんたも呼ぶに決まってるでしょ?何のために明日休みなのよヴィヴ。」
「べ、別にアンジュのためじゃないよ・・・。」
全く、そんなことわかってるわよ言われなくても・・・。
それでもなんだかんだでいつもヴィヴは来てくれるのよね。
そもそも私とのお酒が苦痛なんて抜かしたら
私の得意のメテオ魔法で叩き潰してあげるけどね。
「・・・隠れて!アンジュ!」
「な、なによ!?」
「あの男!最近噂の・・・!」
「アイツは・・・!」
最近なんかニュースとかで・・・!
見た気がするわ!多分ね!
「・・・連続通り魔法使いだよ・・・。」
「そう!略して通り魔ね!」
「何で略すのさ・・・とにかく魔法警察に・・・って何やってるのアンジュ!?」
「あんた!!最近話題の連続通り魔ね?!」
私が叫ぶと男は振り返り・・・ニヤリ・・と笑った
その手には斬撃系の魔法でコーティングされた短い杖・・・。
『フルーツカッター』ね・・・!!
フルーツを切るときに使う簡単な魔法・・・!
「あんたも切り刻んでやるよ・・・!」
「あら?私に勝てるとでも思って!?」
「やめなよ!逃げようよアンジュ!!」
「っさいわね!弱虫は引っ込んでなさい!!」
私は昔からこういう男は許せないのよ!
それに・・・危ない男だし
警察なんか呼んでるあいだに誰が刺されるかわかったもんじゃない
ヴィヴは使い物にならないし・・・だったら・・・!!
「私が今すぐぶっ飛ばしてあげるわ!!」
―――天高く煌く星々よ―――
――今我が手に宿りてその力を開放し賜へ―――
「喰らいなさい!『デスメテオ=フレイム』!!」
こうして私の魔法で黒焦げになった通り魔は
あとから来た警察の手によって連行されっていった・・・。
「ふぅー!いいことすると気持ちいいわね!」
「ね、ねぇアンジュ・・・。」
「お礼ならいいわよ、あんた助けるのなんていつものことだし。」
「ち、違うよ!僕嫌なんだ!」
・・・ヴィヴが私に、こんなふうに言ってくることは珍しかった
いつも私の言うことを聞いて、反抗なんて一度もしなかったのに。
「あ、アンジュはいつも、危ない橋を渡りすぎっていうか・・・。」
「・・・何が言いたいの?」
「別に、アンジュが危ない目にあわなくてもいいじゃないかぁ!!いつもいつも・・・!僕アンジュが心配なんだよ!」
「・・・っふふ。」
「な、何がおかしいのさぁ!」
そういえば、いつもいじめられてたヴィヴを・・・さっきみたいに悪者をやっつけて
毎日のように助けてあげたりしてたっけな・・・。
でも、ずっと私を気遣って・・・私の味方をしてくれたのもヴィヴだったわね。
ヴィヴくらいなのよね、私を心配してくれるのって・・・全く失礼しちゃう。
確かにもし負けてたら、ひどい目に会うのは私よね。
そんなことわかってるわ?でも・・・。
「私がやらなきゃ、誰がやるっていうのよ?」
「ぼ、僕だって男だもん!アンジュの代わりに・・・!」
「弱虫が何言ってんのよ、あんたには無理でしょー?」
「・・・今日は、おしっこちびんなかったもん・・・。」
「はいはい・・・それにね私約束したのよ。」
「や、約束?」
「そ・・・死んだ母親とね。」
私の母親はシスターをやっていたわ
教会で病気の人や怪我をした人を
治癒魔法で治すのがシスターの仕事よ・・・。
でも母親は私が幼い頃に死んでしまったの
街のみんなが彼女の死を惜しんだわ。
皆、母の事が大好きだったの
もちろん私も含めてね
その母が死ぬ前に言ったのよ。
『あなたも自分の正義を信じるのよ』
ってね・・・。だから私は迷わないわ。
多少危険を犯してでも。
私が正しいと思った事は
突き通すのよ、それは私が決めたことだから。
「・・・じゃあ、今晩アンジュの家に、お酒とおつまみを買ってから行くからね。」
「ありがとうヴィヴ、あなた気だけはきくわよね。」
そう言って私たちは帰路を別れた
いつもどうりの光景だった
でも今日はいつもとひとつだけ違っていたの
歌が聴こえたのよ。
それも、後ろから。
「・・・だれ?」
そこに立っていたのは・・・。
狐のお面を被った、真っ黒い宝石のピアスの・・・子供だった。
「・・・僕、黒歌。」
「歌うのが、好きなの?」
「うん、大好き。」
「そう・・・夜中に子供一人じゃ危ないわよ?」
手を差し伸べた時、ゾクッとして体が止まった
この子からは魔力を感じなかったから
・・・本当にこの世の人間なの・・・?
「お姉さんは優しいね・・・。」
その子供はすぅっと消えていった
姿は見えなくなったのに・・・最後に声だけが聞こえたの・・・。
『お姉さんなら、きっと皆を救えるよ。』




