意地悪魔王と毒林檎
「ちょっとー、橘さん?初日から遅刻ってどういうことですか?」
「す、すいません・・・。」
就職して初日から遅刻なんてほんとにやばい・・・。
いま、めっちゃ怒られてるところです・・・。
ああ、ほんと、俺って昔からうっかりしてて
遅刻はするわ、物は良くなくすわ・・・。
ほんと、他人の物までうっかりなくしちゃったりして・・・。
ダメ人間なんだわ、ほんと・・・。
「はぁ、案内するって張り切ってた社長も飽きてどっか行っちゃってますよ!すこしお待ちください。」
「う、うう・・・すいません・・・。」
ああー、社長が自ら案内してやるとかいってたっけ・・・。
やべー、やべーなーほんと、やべー・・・。
「・・・そうだ、ボクの名刺です、貴方とは顔合わせする機会も多いですし、受け取ってください。」
「あ、は、はい・・・。」
名刺には、中臣コーポレーション社長秘書・・・。
『タロー』と、書かれていた。
た、太郎?なんていうか・・・その・・・。
何でカタカナ・・・?
「・・・カタカナじゃないですよ。夕口 一です・・・。せめて縦書きの名刺が欲しかったなぁ。」
「あ、はは・・・なるほど・・・。」
「あ、社長だ。」
「えっ?!あ、ほんと・・・あのファッションセンスは一度見たらもう見間違いがないですね・・・。」
無駄にでかいファーとキラキラのラメのスーツの社長が小さい子どもと追いかけっこをしている・・・。
な、なんだあの子は・・・。なんで会社に子供・・・?
「ああ、あれ、島崎 時雨さん、社長と同い年ですよ。」
「え、ええ!?どう見たって子供じゃ・・・!」
「なんか、病気でそういう風に見えるらしいです、詳しくは知らないけど。」
へ、へぇ・・・なんでそんな病気を持った人と・・・?
追いかけっこなんか・・・やべっ!こっちきた!
「橘ああぁぁ!そいつ捕まえろぉ!!」
「ほぇっ!?えっ・・・?!」
「病院やだ!今日は元気なんだってばぁぁ!」
僕の後ろに隠れる時雨さん・・・。
病院嫌いなんて、本当に子供みたいだなー。
社長もそんなに追い回さなくても・・・。
今日は元気だって言って・・・。
「カハッ!」
ちょっと血を吐いた時雨さんを見て
俺はとっさに捕まえた。
「全然元気じゃなさそうじゃないですか!?」
「しまった!!」
「良くやった橘!よし!病院に行くぞ時雨!」
「やだぁぁ!天ちゃんの鬼!悪魔!魔王!ラスボス!闇属性いいぃ!!」
・・・なんか後半強そうだな・・・。
しかし・・・あの怖そうな社長が天ちゃんか
なんだか微笑ましい。
「タロウ!案内はお前がやれ!後で合流する!」
「ハジメです!わかりました!ちゃんとお願いしますよ!全く・・・おねがいします橘さん。」
「あ、はい・・・よろしくお願いします・・・。」
一さんは丁寧に説明しながら、あちこち施設を案内してくれた。
さすがでかい会社だけあるなー、俺一人にこんな親切に・・・。
中臣コーポレーションは広く、開発から製造まで下請けなしでやっている
と、いうより下請け会社を全て中臣コーポレーション印にしてしまっているのだが。
いったい何のために・・・。
「続いては貴方の職場です・・・倉庫番でしたね。」
「あ、はい・・・。」
「貴方については、通常給与の1.5倍を考えているそうで・・・引き抜き等があった場合はそれ以上の額をお出しするので、是非御社で・・・。」
「え、ちょ、ちょっと・・・たかが倉庫番ですよね?」
「・・・ああ、はい・・・貴方の場合は特別業務ですけどね。」
「え、聞いてないです!」
「え・・・はぁ・・・社長もいい加減だな・・・貴方の担当の4番倉庫ですが、そちらのみ貴方一人にやって貰います。」
「はぁぁ!?ちょ、ちょっとまってください・・・!俺、物を良く無くすんですよ、一人でそんな・・・!」
「無くしてしまっても一切咎めません、思う存分無くして下さい。」
この会社大丈夫なのか・・・。
だんだん不安になってきた・・・。
「・・・おい、話す手順を考えろタロウ。」
「・・・ハジメですって、じゃあ自分で説明してくださいよ社長。」
ついに社長が現れた
口ぶりからすると・・・やっぱちゃんとした理由があるのだろうか。
「・・・まぁ聞け、橘・・・お前は我が社をおかしな会社と思っているだろうが。」
・・・だよな、社長からすればちゃんと理由があるんだよな。
「その理屈で言うとお前を雇っている時点で何かおかしいと思わないか?」
「・・・思いますけど、本人に言います・・・?それ・・・。」
「面接でよくものを無くす話しかしないような奴だぞ・・・?当日も遅刻してきたし・・・。」
「・・・ですね。」
「我が社はそのデメリットともとれる物も『才能』として開花させようという計画があるのだ。」
・・・つまり・・・。
ダメ人間のダメな部分も
使っていこうと・・・?
「・・・例えば、うちから派遣させている、今井 勝という社員がいる、写真がこれだ。」
「は、はぁ・・・写真では好青年にみえますが・・・。」
「コイツは半端なく名前負けしていてな・・・勝負事で勝った事が一度もない。生まれてからじゃんけんすらも一度もだ。」
「はぁ!?あんな平等な確率ゲーですら!?」
「それどころか、あいつが所属したチームや、応援する団体も必ず負ける。」
「そ、そんな・・・。」
「だからあらかじめ、株を買いたい会社や、潰したい会社に派遣させるのだ・・・本人には伝えてないが・・・。」
この人株やってんのか・・・。
・・・でも、そんなので・・・。
会社なんて潰れるのか・・・?
「今まで彼の実績としては・・・17社を倒産させ、黒鳥財閥との契約が進んでいた会社の車が黒鳥の長男を轢き殺してしまったくらいだな・・・。」
「僕はそこまでではないです!!無理です!!」
「そこまででなくとも、お前の力が俺には必要なのだ・・・。お前はただ倉庫の中に居ろ、それだけでいい。」
そんなこといったってなぁ・・・。
俺が倉庫番したところで何になるっていうんだ・・・。
そもそも一番向いて無さそうな仕事なのに・・・。
「・・・ところでお前、遅刻してきたよな?罰ゲームだ、この三つの中から選んで食え。」
「しゅ、シュークリーム・・・?」
「三個のうち二つはある有名レストランのシュークリーム・・・だが一つはわさびシューだ。喰えば遅刻は帳消しにしてやる。」
「・・・ホントですか・・・?じゃあ・・・。」
俺は恐る恐る、シュークリームを一つかじった・・・。
するとどうだろう生地からは芳醇なバターの香り
そしてとろけるようなクリーム・・・。
そのクリームもけっして甘すぎず
ただただ口の中でとろけるような・・・。
「・・・!!う、うまい!うますぎる!!」
「・・・よかったな・・・紅茶もあるから良かったら一緒に呑めよ。」
「あ、はい・・・。」
せっかくなので高級シュークリームを食べていると・・・中からなんとワサビが!
か、からい!急にからい!!!
「かは!は、ハナが!うわ!」
「・・・なんだ当たりだったのか、紅茶を早く!」
「は、はい・・・うわ!紅茶もからい!うひゃああ!」
・・・とりあえず社長は変わった人だった。
その日から、実際に働く事になったのだが・・・。
重要そうな荷物ばかり・・・。
厳重に施錠された箱や、火薬のにおいがするものまで・・・。
だけど・・・やっぱり俺がちょっと目を離しているうちに、どこかに無くしてしまって・・・。
今日も倉庫は空っぽになってしまった。
ああ、だから俺は物を良くなくすんだってば
こういう仕事はむいてないよ・・・。




