意外な事実
「あら、殿下。お帰りなさいませ。」
真桜はにこにこと微笑んでいる。ここは東宮の殿舎である梨壺だ。真桜の隣には正治もいる。
「やあ。真桜。ふられてしまったよ。」
「まあ。案外うまくいきそうですね。あの二人。」
真桜が嬉しそうに言う。東宮はにやりと笑う。
「うまくいく?今のままじゃあそれはむりだな。もっとお互い我儘にならなくてはあの二人は多分すぐだめになるだろう。」
東宮の言葉に正治はため息をつく。
「東宮様。あの二人に余計なことしてはいけませんよ。」
正治が嗜めるように言う。
「おいおい。正治。自分だけまともみたいな言い方だな?お前も面白くなる方が好きだろう。せいぜいあの二人には楽しませてもらうさ。」
「まあ、面白いのは好きですけど、紡君の恨みは買いたくないんですよ、私は。」
東宮の言葉にすかさず返した正治を東宮は白けたように見る。
一也はとある酒屋にいた。もちろん一人で酒屋にいるのではない。学生時代からの友人であり今は妹の婚約者となった枢木紡とだ。
「今日は悪かったな。紡。」
「いやいや、構わないよ。ずっとはそばに居てあげられなかったしね。そこは詫びるよ、ごめんね。」
紡の言葉に一也はため息をつく。
「陛下にも困ったものだ。いつになったら諦めてくれるのか。」
一也は少し苛立つように言う。紡から見て一也はあまり感情をはっきりさせないが、妹彩也子のことになると驚くほど感情がわかりやすい。
「そうだね。予想外だ。流石に婚約者になったら陛下の東宮妃計画も諦めてくれるのかと思ったんだけど。陛下にとって彩由子様の存在は意外と重かったみたいだ。」
紡は考え込みながら言う。
「紡。お前には迷惑かけて悪いと思ってるよ。」
一也が申し訳なさそうに言うと、紡は笑みを浮かべる。
「いやあ、逆にお前には悪いと思ってるよ。お前のあんなに可愛い妹を僕は奥さんにできるんだから。ですから悪く思うなよ。お義兄様。」
紡の言葉を聞くと、ぴしり、と一也は固まる。
「まだお前のお義兄様になったつもりはない。それにお前、ま、ま、まさかとは思うが彩也子に手を出してないだろうな?」
一也は珍しく慌てたように言う。紡はくすり、と微笑む。
「はははっ。本当一也は彩也子さんのことでは人が変わるなあ。彩也子さんの前でもそれでいたらいいのに。というか僕ってそんなに信用ない?...まだ手は出してないから、安心するといい。」
紡は笑いながら言う。一也はほっとしたようにしてそれから深刻そうな顔を浮かべる。
「俺はあの子には俺の全てでできるだけのことをしてあげたい。それが俺が唯一できる償いだ。あの子のためだったら何だってしてあげたいんだ。本当は。」
一也は思いつめたように言う。まるで、彼の妹の想いは呪縛のようだ。紡はそう思ったが、友人に何も言わなかった。いや、何も言えなかったのだ。自分も似たような呪縛を抱えているから。