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理想と好き

「あれ。紡君じゃないか。真桜ちゃん本当に連れて来ちゃったんだ。」


 呆れたように言うのは近衛公爵家嫡男の近衛正治(まさはる)だ。


「何か文句でもありますか?」


 真桜は睨みつける。正治はため息をつく。


「紡君。君、婚約者殿はいいの?」

「良くないのでさっさと手早く面倒事を片付けたいです。」


 紡は面倒そうに言う。真桜は驚いたように紡を見る。


「ワーカーホリックの紡君からそんな言葉が聞けるとはね。」


 真桜は喜ばしいように言う。


「真桜。ちょっと黙ろうか?」


 紡がにっこりと言う。紡の口元は笑みは浮かんでいたが、目はわらっていなかった。まだ言い募ろうとする真桜の口を正治が塞ぐ。これ以上紡が機嫌悪くなったらたまらないからだ。真桜は仕事以外では鈍いからこっちとしてはたまったもんじゃない。と正治はため息をつく。










「久しぶりだね。彩也子嬢。」


 にっこりと彩也子の目の前で微笑んでいる美青年はこの国の皇太子である東宮だ。彩也子はにっこりと微笑む。


「お久しぶりです。殿下。」


 彩也子が言うと、東宮は機嫌良さそうに彩也子に近づく。天皇と中宮は東宮と彩也子を置いてどこかに行ってしまった。


「君には中々会えないからね。寂しかったよ。」

「まあ。ご冗談を。」


 東宮は真面目な表情を浮かべる。


「どうかな。私の妃にならないか?」


 東宮の言葉に彩也子は固まる。


「は?」


 彩也子は某然とする。


「可笑しい話ではないだろう?なんなら愛人でも構わないよ。なにせ、紡は人前で婚約者でもない女とキスをするような仲までいった軽薄な男だ。君には相応しくないんじゃないか?」


 東宮はにっこりと言う。




「お疲れ様。紡君。ありがとう。助かったわ。早く戻ってあげなさいね。」

「本当に真桜は真桜だな。」


 真桜がにっこりと笑って言うと、紡は呆れたように言う。真桜は急に真顔に戻る。


「いやいや、本当の話よ?陛下は彼女を妃にしたがっているもの。早乙女の次位の妃を花小路彩也子嬢を。これが陛下の真意なのかもしれない。だからね、今東宮と彼女は二人きりのはずよ。」


 真桜は真剣に言う。紡は珍しく焦った表情を浮かべる。それから部屋を出て行く。


「それ、本当なのかい?」

「本当よ。正妃には早乙女の娘を置いて、その次の妃には彼女を置く。それはまあありといえばありだなって私も思うのよ。」


 正治の問いに真桜はつまらなさそうに言う。しかし、言葉を聞いて微笑ましそうに紡の行った方向を見る。


「あの紡君があんまりにも変わったから、つい情をかけちゃった。」


 真桜の言葉を聞いて正治は頷く。


「まあ、紡には驚いた。あいつは誰にも興味を持たない。そんな奴だと思ってたからね。」

「私はできたら最善を選び続けたいの。誰にとっても。」


 真桜はそう言って正治を見つめる。


「そうだね。」


 正治は微笑んで真桜を見つめ返す。








「殿下。私にとって紡様は理想なんです。ですから私は紡様の婚約者になれて本当に嬉しいです。」


 彩也子はそう言う。東宮はふ、と微笑む。


「理想と好きは違うんだよ。彩也子嬢。」

「好きです。私は好きなんです。ですから殿下、どうかご容赦くださいませ。」


 彩也子はにっこりと微笑んで言う。東宮はそんな彩也子を呆気に見ている。









 東宮とのあのやり取りのすぐ後、紡は彩也子を迎えに来た。それで彩也子は紡が家まで送ってくれることになり、枢木家の車に乗っている。


「今日はごめんね。仕事になってしまって。」

「いいえ。いつも宮廷についてきて下さってありがとうございます。」


 彩也子が言うと、紡は微笑む。


「婚約者だからね。それくらいはさせてほしいな。君のエスコートなら大歓迎だよ。それよりも、東宮様とは何を話していたのかな?」

「妃にならないかなどと言われました。でもすぐにお断りさせていただきました。」


 彩也子が正直に言うと、紡は目を見開く。


「皇族の方の申し出をお断りするのは失礼だと思ったのですが、私には将来を約束して下さった婚約者がいますし。」


 彩也子の言葉に紡は目元を緩ませる。


「君には驚かされるよ。変なところでしっかりした子なんだから。」


 紡はそう言って、彩也子の手に自分の手を絡ませる。


「ありがとう。僕の妻になるのは君だけだよ、彩也子さん。」

「はい。紡様。」


 紡はそう言って彩也子を見つめた。彩也子は照れたように微笑んでいる。








 別に私は紡様の特別でなくても構わない。私は彼の妻となって穏やかな家庭を築いて穏やかな恋を永遠に続けていたいのだから。この恋が叶わないのはわかっているもの。





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