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灰色の勇者  作者: 東京人
2/3

日常


プロイセン王国王都中心部、とある店から元気な声が聞こえる。

<木葉亭>と書かれた看板のその店は、良心的な価格の料理屋兼宿屋として今日も賑わっていた。


「いらっしゃいませ!」


勢いよくお辞儀する少女は名をレティシアといい、この店の看板娘である。その元気な姿と愛嬌につられて足を運ぶお客も多くレティという愛称で親しまれている。



「ちょっとレティ!もう昼前だ、いい加減ライルさんを起こしてきておくれ!」

そういって声を張り上げたのは、この店を切り盛りする女将のセシルである。ここに泊まる者は相手が冒険者などの荒くれ者であっても、少しも恐れず宿の規律を守らせる強い女性として王都で知られていた。


「もう起きてるよ・・・」


どこか気だるげな言葉とともにその男は現れた。ぼさぼさの黒髪にどこか疲れたような目。年齢は二十代後半といったところだろう。引き締まった体つきに紺のコートを羽織っていた。


「悪い、女将さん。今からちょっと出かけてくる。洗濯物はまとめておいたから・・・」


そう言って出て行こうとする男に女将が慌てて呼び止める。


「ちょっと、朝飯ぐらいは食べていきなよ。体に悪いよ?」

「いや、別に大丈夫だから・・・」


どこか投げやりな動作と共に出て行く男を女将セシルはため息をついて見送った。


「あれ?もうライルさん出てっちゃったの?」

「そうなんだよ。もう少し規則正しい生活を送れないのかねえ」


女将はどこか呆れたように言うが、この寝坊常習犯のライルという男は正式にはライル・ブライトといい、冒険者ギルドではCランクの中堅として活躍しているから世の中わからないものだ・・・







「まったく・・・女将さんはうるさいよなー。・・・まあその暖かさが気に入ってるんだけどさ・・・」


俺、ライル・ブライトはいつものように木葉亭を出た。もう今年で26歳、今日も王都は平和だ・・・

今から十年ほど前に魔王による大侵攻もあったが、このプロイセンは進行を受けた側とは大陸の反対側だったので幸い被害を受けずに済んだ。


そう、公式な記録では勇者と一国・・・・・を犠牲にすることで大陸は救われたとされている。



(ホント平和だよな・・・)

そう思いながら俺は冒険者ギルドの扉をくぐった。


「あ、ライルさん!ちょうどよかった、スラッシュベアの討伐依頼を受けてくれませんか?」


そう声をかけてきたのは受付のメアリだ。冒険者たちからはたいそう人気がある受付で結構目立つ。特にその胸が・・・


思考が逸れてしまった。とろあえず、スラッシュベアとは王都近くの森に偶に現れる魔物である。クマのような外見と両手にある非常に長い爪からその名がついたとされている。上位の冒険者であれば余裕だが下位パーティーが遭遇すれば全滅の危険がある。


「いいぜ、ちょうど暇だったしな・・・」

「ほんとですか!?ありがとうございます。今ちょうどCランク以上の冒険者の方ががみんな出払ってるんですよ。報酬には色を付けさせてもらいますね」

「助かるぜ。場所は?」

「西の森だそうです。あそこは下位の方も薬草採集なんかで訪れることがあるので・・・」

「そいつは早くした方がいいな。じゃあ今から行ってくるわ」


「お気をつけて」

その言葉とともにギルドを出発する。


(今から行けば夜までには帰ってこれるな。夜は木葉亭でゆっくりしよう)


そんなことを考えながら俺は森へ向けて出発した・・・




<side???>


森の中を一台の馬車が疾走していた。さらに一目で普通ではないとわかる鎧を着こんだ男たちが馬でその馬車を追っている。


「おい待ちやがれ!!」


背後から怒号が聞こえてくる。今は御者の必死の手綱捌きのおかげで何とか距離をとれているがそれも時間の問題だろう。


「くっ《ファイアボルト》!」


とっさに火属性の初級魔法を放つが揺れる馬車の上では狙いが定まらない。奴らの馬の足元に当たり何頭かが棒立ちになったが、それなりに訓練された連中なのか体制を立て直すのが早い。


私がもう一度魔法を放とうとした時、御者の悲鳴と衝撃が来て、次の瞬間には馬車が横転していた。


(回り込まれてた・・・!?)


そう気づいた時には地面に投げ出されていた。


「くはっ」


息がとまるほどの衝撃で動けない私を恐らく待ち伏せしていたのであろう、剣士や魔法士たちが取り囲み縄で手足を縛り上げた。


「クソ、手こずらせやがって!」

「なあなあ、こんな綺麗な女なんだ。少しくらい味見してもいいよなあ」

「いやっ放して!放してよ!!」


一人の男が私の服に手をかけた。気持ち悪い吐息が顔にかかり思わず私は悲鳴をあげたがそれが逆に男たちの興奮を煽ってしまったようだ。ほかの男たちの瞳にも情欲の影がちらつく。


「なにやってやがる!」


次の瞬間怒声が響いた。先程後ろから追ってきていた馬の連中が追いついたのだろう。


「なんだよ、味見くらい良いじゃねえかよぉ」

「何を言っている。そんなことをすれば報酬はなしだ!できるだけ無傷で捕えろといったはずだぞ!」

「ちっ、しょうがねえな。じゃあ早く金をよこせよ」


どうやら待ち伏せしていた男たちの方が立場が下らしい。渋々といった雰囲気で男たちは引き下がった。装備も馬の連中は質の高い鎧だが、待ち伏せしていた連中は革鎧など全体的にみすぼらしい。身なりのいい方は貴族の私兵で、みすぼらしいのは山賊崩れといったところだろう。

そこで私兵のリーダー格が静かに口を開いた。


「すまんな、金はやれんよ」

「なに!?どういうこ・・・」


驚いた山賊崩れたちが反応するより早く私兵たちが躍りかかった。


「くそ、てめえら」

「ぎゃあ」

「畜生!」


勝負は一瞬で決した。奇襲だったうえにそれぞれの練度が違う。私兵たちは容赦なく山賊崩れを皆殺しにすると、リーダー格の男が私に歩み寄ってきた。


「エリーゼ王女ですね。私たちと共に来てもらいましょうか」

「嫌よ、死んでもお断りだわ!」

「あなたには残念ながら選択権はないんですよ」


そういって私を私兵たちが抱え上げる。


「放して!!」


私が連れて行かれそうになったその時だった。


「おいおい・・・なんか厄介事みてえだな・・・」


目の前に黒髪のコートを羽織った男が現れたのは・・・

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