勇者が呼ばれた日
目覚めると、そこは知らない天井だった。
「あなたが勇者様ですね!!」
目の前にいたのは驚くほどの美少女。腰まで届く水色の髪に真紅の瞳。そんな今まで見たこともない美少女に見つめられた少年、進藤明はひたすら困惑していた。
「えっと・・・ここはどこ?君は誰なんだ?」
明らかに戸惑っている様子の彼にその美少女は答えた。
「申し訳ございません、勇者様。私はトルメニア王国第一王女アリシア・フォン・エルテーゼと申します。今我が国は魔王の脅威にさらされています。どうか、私たちにお力をお貸しください」
「えっと、それってテンプレな勇者召喚とかですか・・・?」
「テンプレという言葉の意味は存じませんが、確かに私は我が国に伝わる勇者召喚の魔方陣であなた様を召喚いたしました」
「めっちゃテンプレ通りだな・・・もしかして勇者はむちゃくちゃ強くなれたりするの?」
「よくご存知ですね。確かに召喚の魔方陣を通られた歴代の勇者様は皆、尋常ならざる魔力を持ち、高い身体能力を兼ね備えた方々だったと記録されております。」
(マジかよ・・・もしそこまでテンプレ通りなら、帰れないとかもありそうだな・・・でもまあそれでもいいか。元の世界に未練があるわけでもないし・・・)
明は元の世界ではいつも孤独だった。友達もおらず、目標もなく毎日を生きていた。もし、自分がこの世界で必要とされ、それだけの力があるのなら、それでもいいかと考えた。
「わかったよ・・・えっと、アリシアだっけ。毎日の生活が保障されるなら勇者にでもなんでもなってやるよ」
「ほんとですか?ありがとうございます。では早速お部屋にご案内いたしますね、勇者様」
「ああ、それと俺の名前は明だ。勇者様なんて呼ばなくていいよ」
「そうですね、それではアキラ様とお呼びしますね!」
あくまでもアリシアは様呼ばわりらしい・・・
それでも明はこの世界で、今目の前にいる少女を守れるなら頑張ろうと思った。自分が活躍できる世界で、誰かのためになるのであれば、彼は勇者になろうと思えた。かつて少年時代に誰もが憧れたヒーローになれるなんて、素晴らしいことではないか。様々な期待と希望に胸を膨らませ、彼は異世界での一歩を踏み出した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
しかし・・・・・・
この世界はどこまでも残酷だ
彼の理想は手が届くには高すぎた
守りたいと思った少女は己の為に散った
ようやく掴み取った小さな光は彼の手から零れ落ち
振り返れば後ろに続くは屍の道
最後に手にしたのは、血まみれの剣と深い絶望
人々は彼を「灰色の勇者」と呼んだ・・・