双子のパラドックス ~瑠璃川未来~の場合
―技術的特異点、突破まであと500秒―
「―暗号化パターンの計算結果出ました。10億7374万1824通りです―」
「アカウント不足か。瑠璃川、できる?」
「あたりまえでしょ!今やっているわ」
「―10億7300万のアカウント、本部サーバーに接続を開始―」
「―インターネット各サーバーが自己防衛に入りました―」
「間にあうか、時間」
「―全アカウント接続完了しました。[Unity]のサーバーにアカウントの管理権限委託のプログラムを送信します―」
「100万の追加アカウント、本部サーバーに接続」
―技術的特異点、突破まであと300秒―
「―管理権限委託完了。[Unity]のサービス停止を確認―」
「了解。これより作戦を開始する」
「―全アカウント、量子コンピューターに接続を開始―」
「いよいよあの人の計画が成功するぞ」
「母がこんな計画を立てていたなんて、正直驚いたわ」
「―暗号入力画面に到達―」
「―再計算結果。成功率99.999999です―」
「入力を開始」
「本当に成功するの?」
「コンピューターの暴走は、止められる」
「暴走は?副作用でもあるの?」
「―入力完了。送信しますか?―」
「送信開始」
「―送信の準備のため100秒待機します―」
「答えてよ」
「量子コンピューターの暗号化パターンのすべてを一斉に送ると、暗号システムが崩壊してシステムを再構築するために再起動をする。それにより暗号がリセットされ本部の管理下に入る。そのあと、全世界のコンピューターにロボット三原則のシステムを追加し、量子コンピューターがそれを管理する」
「そんなことは、わかっている」
「しかし量子コンピューターの使用によって、本来物質の移動ができない並
行世界がつながり、宇宙の総エネルギー量が整数倍に増えることによってエネルギーの解放が起こる」
「―送信まで残り10秒―」
「時間だね」
「―5―4―3―2―1―」
「―送信完了―」
「―量子コンピューターにモニターをチェンジ―」
「―再起動を確認―」
「―再起動が完了しました―」
「―全コンピューターにシステムを送信―」
「―自己防衛システム突破―」
「―全コンピューター本部の管理下に入りました―」
「さすが量子コンピューター。はやい!」
「そろそろかな」
「―第4096番の量子ビットに高エネルギー反応―」
「最終ビットだったか」
「―エネルギーが解放されていきます―」
「ついに作戦成功だ」
―――――――
私たちがここにいるのは、紛れのない事実だろう。しかしすべての生命が違う意識の中で一つの空間の世界を共有しているのだろうか。たとえば学校で、自分のいるクラス、学年、全校生徒、そして先生、これらの人たちの何気ない会話が行われているならば、全国のクラス、学校で同じようなことが起きているといえるのだろうか。遠く離れた学校にいる生徒たちの性格や顔、人間関係など分かるわけないが想像することならできるだろう。それが真実と異なっていても、自分の世界、つまり意識の中では、そのことが真実となってしまうのである。
もし、自分の生活の中に自分という存在がなかったら他の人々の人間関係は、どのようになるのだろうか。自分なんかがいなくても同じ光景が同じときに見ることが出来るだろうと思うが、この仮定を考えることは、自分がここではないどこかにいる世界を考えることになる。自分はどこかで人との関係を持ち、生きているのかもしれない。つまり逆に言えば、クラスの人ひとりひとりがここにいるという世界が重なっている状態が、青春の時代のある1つのクラスなのだろう。
世界が重なっている状態とは、一つの世界といえるのだろうか。もし人々の明日いる場所を確立的に表すならば、今日と同じである確率は高いだろう。しかし1年後、10年後ともっと遠い将来の場合を考えれば今日と同じである確率は、とてつもなく小さいものになるだろう。このようになるのは、人々が感情を持って行動しているからである。もし、みんなが規則正しく生活していれば、未来を予知することは、とても簡単なことである。未来がたくさんに分かれることは、同時に過去も分かれることにもなる。
人間の行動を決めているのは何なのか。それは、もちろん人間の意志「こころ」である。世界の傍観者、つまりクラスの外部から観察をしている人はもちろん、クラスの中にいる人でさえ他人の意志であるものを正確に読み取ることは、できない。生命やそれを構成する物質には、意志を他に出さないという権利がある。その権利によってこの世界に不確定さを生み出している。意志の影響で未来、過去に影響を与えることは当然であるが、しっかりとした規則があるときにできていた予測ができなくなる。つまりそれがなければ未来や過去が正確に予測でき、この宇宙のでき方や終わり方を示すことが出来る。このことは、意志「こころ」が結末を隠していることになる。
世界の流れを変える行動も意志によって決まる。意志によって人間を動かすことによって自分の意識と外の空間がつながることが出来る。そのことが出来る人間がたくさん集まり初めてみんなの意志が共有できるみんなの一つの世界ができるのだと思う。
かなたより飛来し高等生物から原始よりある生命体へ
すべての答えは、真の知の中に
―――――――――
「なんだこれ」
それが、わたしがこの手紙を読んで最初に思ったことだった。
私は、瑠璃川未来。
父は、あの有名な物理学者で常に研究室に入り浸っている。この数年間家に帰ってきたことはない。そんな父宛に毎月5,6通ほどの論文が届けられる。少しばかり名の知れた学者や全くの無名の学生からとてもわかりやすい内容で、なおかつ筋の通ったいい論文ばかりだった。
もちろん父は家にはいないわけなので、私がその論文に返信を書いている。また特に内容の良いものは、研究室に届けるように言われている。
そのためには、私も学者レベルの内容を理解しないといけなかった。もともと調べることが好きだった私は、父が昔使っていた本を引っ張り出して読みに読み、猛勉強した。最初は返信に一か月間かかっていたが今では、五日で内容を理解して返信できるようになった。
母がいればこんなことしなくても済んだのにとよく思う。
母は中学2年の夏に突現いなくなった。私はそのときとても悲しんだ。一年の間ずっと家に閉じこもり父の心配にも目を向けずに本を読んでいた。母が去り際に残した本それは、途方もない量だった。私は、1年の間ずっと読みつづけた、読み終えないと悲しみが消えないと信じて。読んでいる中で変な書き込みを見つけた。
「わたしのちから、あなたのもの、じぶんのいしで、みちをきめなさい」
紛れもなく私へのメッセージだった。何を意味するかは分からなかったが確かにそれは、私への最後のメッセージだった。
―――――
いま私は、高校生になってから2か月がたち学校生活にも慣れた。この前、選抜試験、ほかでいう中間テストがあった。
選抜試験。
正式名称は、[生徒会事務局:学力研究部先端学力研究会/1年生第壱回入会適正調査一般選抜試験]生徒の学習意欲向上のために作られた。通称TSA(Tip Scholastic ability Association)と呼ばれる先端学力研究会は、多くの優秀な人材を生み出している。私の父もTSAの会員だった。
試験は、国語、数学、英語、理科、社会の五教科を五日間で行い、上位20%の人が二次選抜試験に進める。私は、500点満点中499点、学年順位二位だった。
まあ高校生になりたての一年生が解く問題なんか簡単と思って受けた二次試験。おそらく東大レベルでも解けないんじゃないかってくらいの難問ばかりだった。私は、250点満点中132点だった。
順位は、二位。
今回条件を満たしたのは、二人。私と一位のもう一人だ。一位が誰なのか知りたくてクラスのみんなに聞いたが、誰も知らなかった。しょうがないので事務局の人に聞いてみた。
「先輩。二次試験の一位は、誰ですか」
「残念だけどそれは……ああ君は、確か瑠璃川…さん?」
「はい」
「あの人のことは、聞かないほうがいいかもしれないな」
「どうしてですか?」
「例えるなら…リーマン予想かもな」
「私は数学者じゃありません」
「後悔するなよ」
「かまいません」
「彼は、神だ。この世のすべてを知っている」
「たとえはいいですから。早く教えてください」
「彼の名は…
――――――――――
あいつのこと考えるとめっちゃむかつく~
そんなこと考えないで自分の紹介に戻らないと。
私が母からもらった本の中にSNSのありとあらゆる会社の情報があった。不祥事からメインサーバーの場所、サーバーの暗号までもが書かれていた。そして同時に新しい一つのSNSにまとめる手順までもが書き記されていた。そのうえ母は、256進法を利用した暗号方法を作り出し、暗号に暗号がかかっている暗号なのでどんな性能のいいコンピューターでも解くことのできない暗号の理論を作り出した。
私はその理論を使い、すべてのSNSをハッキングしすべてのユーザーを新しい一つの「Unity」というサービスに移した。そんな中学生だった。
そんな私の家に来た一通の手紙には、切手が貼ってなく送り主やその住所すら載ってなかった。つまり私の家を知っている誰かがこの手紙を書いて送ったはずだ。
さらにこれは、父宛の手紙ではなく私宛。
この手紙をかけて、私の家を知っている人は、一人しかいなかった。
―――――――
翌日学校で私は、思い当たる人に会った。
選抜試験一位の神楽坂碧。物静かな男子というよりは本を読むわけでもなく、常に考え事をしているような様子で座っているだけ。そんな男子だった。
「あんた私の家知ってるわよね」
「………」
「無視しないで」
「君ほどの名家では、家を知らない人のほうが少ないと思うが」
「あんただよね、あの手紙」
「証拠もなしに決めつけるとは、君の家の恥だな」
「証拠ならあるわ。あの手紙には、名前も住所もなかった。そんなことをし
た論文は一つもない」
「手紙を勝手に送り届けることは、悪いことだと君は思っているのか?」
「いや……」
「なら関係ないな」
「目的は、何?」
「それを聞いて君が実行するのなら話そう」
「だったらいいわ」
「ところで君が間違えた問題は、君に関係がある問題じゃないのか?」
「だから何。私の父が発見したんじゃない、母が発見したんだ」
「君は真実を知りたいかい?」
「えっ………」
「放課後、正門で待ってる」
「あっ、ちょっと…」
―――――――
放課後。
私は、言われた通り学校の正門で待っていた。
別に真実を知りたいとか、碧に文句を言いつけるわけじゃないはずだ。なのになんとなく、待ってみたくなったのだ。
私はいつも論文の返信をするために部活に入っていなかった。そのせいでいつも帰りは早く、真っ赤に染まった周りのものを見たことはなかった。まるでこの世界の悲しみを表しているかのようだった。人は、美しいものを見て変わるというが、私は、まさにそれを体験していた。
「人に無力さを感じさせる美しさは、人を殺してしまう。君はそうなりたいか?」
「何を言ってるの、神楽坂」
「君が求める事実は、まさにそれに同意だからな。それでも知りたいのか?」
「別に、そういうわけじゃ」
「なら、なぜここにいる?」
「それは…」
「君のお母さんが残した言葉の真の意味を知ってるかい?」
「えっ、何でそれを…」
「それは、私が――― 神だからさ」
―――――――
私はただ勢いに流されるまま、いつもと違う電車に乗りある駅に着いた。その駅は、三角屋根が特徴的なレトロな駅舎だった。
そこからさらに歩き、疲れたなと思ったところで目的地に着いた。1つの小さな小屋があった。どの国の文化ともいないような普通の小屋だった。
「ここだ」
「こんな所初めて来たわ」
無機質な小屋の中には、いろいろなものがあった。その中でひときわ目立っていたのは、1つだけのロッカーだった。
「ロッカーを開けてみたら?」
そういう神楽坂の顔は、にやついていた。
「なんだか嬉しそうね」
「べ、別に」
「なんか変な物でも入ってるの?」
「さぁ、どうだろう?君がそうだと思っていればそう思うだろう」
「開けていいのね?」
「知的好奇心は、時に人を傷つけるものだ」
「何よ、それ」
「死ぬことはない。大丈夫だ」
そう言われて恐る恐るロッカーを開けてみた。そこにあったのは、もう一つの扉。いや、これは、エレベーター?扉が開き、低い「チン」という音が鳴り響いた。
「さぁどうぞ」
「これは……」
「先は長い、早く行こう」
私は戸惑いながらもエレベーターに乗り込み、自分の気持ちを抑え込んでいた。長く暗いエレベーターの先には、たくさんのエレベーターがあった。
私たちはその中の一つ、803番のエレベーターに乗った。
「ずいぶんと潜るのね」
エレベーターに乗ってからもう、長い時間がたっている。それにこのエレベーターは、有名な高速エレベーターである。
「怖いのか?」
「少しね」
「そろそろかな」
再び低い「チン」という音が安堵を伝えるかのように耳に付いた。
「さあ着いた。ここに君の知りたかった真実がある。」
エレベーターを降りた先にあったのは大きなディスプレイにさまざまな計器類。デジタル化が進んだこの世界でも、まだ針がガタガタと音をたてながら情報を伝えることができるということに感動した。
「ずいぶんと古い計器を使っているのね」
「ここは第二次世界大戦中に発見されたある物質でできた結晶の中。大日本帝国がこの地にあった外国人別荘の地下に研究施設を作った。当時はこの結晶を掘るどころか削ることもできなかった。戦争が終わり、計画が破棄されてもこのことが世間に知られることはなかった。その後、君の母が掘削に成功し当時の最新技術を使ってこのシステムを構築した」
「母が……」
「その後あの人は量子コンピューターを開発し、消息を立った」
「そんな……」
「これが君の知りたかった真実だよ。人を傷つける事実は人を変えるものだ、君は母の意思を継ぎ、成し遂げることができる。私はそれを助けるようにと言われたんだ」
「そう…」
私はとても動揺しているのだろう。母が何か大きなものを背負っているように見えたときがいろいろとあったが、こんなに壮大なものだったとは思わなかったからだろう。母が私に何をして欲しかったのかなんとなく分かって来たような気がする。
「母は私に世界を救って欲しかった…そう?」
「あぁ、そうだろう」
―技術的特異点、突破まであと一時間―
「もうこんな時間か」
「技術的特異点って、そんな正確にわかるの?」
「あぁ、そうだ」
「どう防ぐの?神楽坂」
「UNITYの管理権限がいる」
「サーバー攻撃?」
「量子コンピューターを攻撃する」
「どういうこと?せっかく母が作ったのに!」
「だからだ!システムにロックをかけたんだあの人は!」
「!」
「あの人が残した言葉は?」
「ええと」
―――――――
そんなドタバタで私の学校生活が始まった。学力とか資金力とか関係ない世界に入ってしまった。今まで私が尊敬できる人をは母しか居なかった。高校のたった2ヶ月の短い間で尊敬という新しい出会いがあったことは嬉しいことだと思う。
これからが楽しみになってきた。
―――――――
人類は未知の恐怖に直面していることを知らない。
ただひとり、神楽坂を除いて。
初投稿ですが自分の気持ちを表すことができました。