one scene ~chinese cafe~ vol.5
「結婚したの?」
ある意味吹っ切れた僕は
それを聞いた。
僕はずっと彼女の一番の味方だと、信じていた。
たとえ生涯会えずとも、彼女の幸せを何より願って、別れを告げたあの日からもずっと。
むしろあの日からが、本当の味方だったのかもしれない・・・
だからこそ、僕は今日ここへ来ることが出来たんだ。
そのことをもう一度自分自身に言い聞かせた後、それを聞いた。
「え?」
少し驚いた表情の彼女・・・
「ああ、この指輪?」
もちろんそれのことだけど・・・
「ごめんね・・・」
謝る必要なんてない・・・
一週間前・・・携帯電話のメールの画面の中で、もう二度とメールが届くことはないと思いながらも、削除することが出来なかったフォルダーに、一年ぶりにメールが届いていた。
そして心のどこかでそんな期待をし、待ち続けていた自分を女々しいなどと恥じることもなく、奮えに似た感情を覚えながらも、それを抑え、飾ることなく返信をした。
なぜならその時こそはきっと、彼女の幸せを心から祝福出来る機会なのだと、信じていたからだ。
彼女はお箸を置いて、少し悲しげに指輪に目をやったあと・・・笑った。
そして彼女はおもむろに左手の指からその指輪を外すと、右手の指にはめ直した。
?!・・・一瞬わけが分からず、僕は固まったまま彼女を・・・見ていた。
「ああ、これは春に亡くなっちゃったおばあちゃんの形見なの・・・そういえば左手にするの嫌いだったもんね・・・ごめんね」
「え?」
僕は未だ固まっていて、その声が喉から出たかどうか分からないが、確実に表情には驚きが出ていたのを彼女は気づいたのか、もう一度謝ってみせた。
確かに昔、僕があげた指輪をはじめは左手の指にしていたのを
「結婚指輪じゃあるまいし」
と言って、右手につけ直させたのだが、その時彼女が言ったのは
「だってお箸が持ちづらいんだもん」
だった・・・
僕は少し混乱しながらも
「そっか」
とだけうなづき、味がわからなくなってきた料理を、ひたすら口に運び続けた。
to be continued