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地を這う獣は衝撃を受ける。

「私、ジュレもラテも大好きだし」


 にこりと微笑んで言った私の台詞に、男二人がぎょっとしたように固まった。

 してやったりと、更に私の口角が上がる。


 どうよどうよ、今の台詞サキュバスっぽくない!?

 二人の名前から連想して男を食べ物扱いする・・・マジで私天才なんじゃないかしら。


 なんて、頭の中で自画自賛をして、満足げにもう一粒葡萄を口に放り込んだ。

 甘酸っぱい果汁にも満足して目を細める私とは逆に、軽く目を見開いていたジュレイが苦々しく口を開いた。

 その声は先程よりも、ずっと低く搾り出しているようだ。


「・・・貴様、それは一体どういうつもりだ?」

「つもりっていうか、そのままの意味だけど?」

「そ、そのままの意味と申しますと・・・」


 ラテの綺麗に整った眉が僅かに寄り、その瞳には困惑が浮かんでいる。

 だが何かを期待するような光がその奥に見え隠れしているのに気付いた私は、自分の台詞が間違っていなかった事を確信した。

 適当にコスプレキャラになりきっておけば、とりあえずこのイベントの趣旨として間違いないのだと。


「契約なんてどうでもいいから、二人が私を満足させてくれたらそれでいいって事」


 サキュバスキャラになりきり、テンションの上がった私が、ふふっと笑うと、ラテの頬に赤味がさす。

 口元を引き締め更に眉間に皺を寄せるジュレイと違って、ラテの反応はすこぶる良い。

 ぶっちゃけもうキャラになりきるのは無しにして、普通に話そうと持ちかけようと考えたりもしたけれど、そんな反応を返されると気分がいい。

 もう少しこの茶番に付き合ってあげてもいいかもと思えるくらいには。


 こうやって更に人はコスプレの深みにはまっていくのね・・・


「ああでも、ラテとジュレじゃなんか物足りないかな」


 物足りないというか、食べ合わせとして変だ。

 頭の中にミルクとゼリーが並べられたテーブルを想像して、苦笑した。

 また一粒口にいれた葡萄を舌で転がしながら、この後何か水分を取るとしても、流石にミルクは選ばないしねと考える。

 苺やバナナをそれぞれミルクとミキサーにかけて、ミルクオレ、イチゴオレにして飲むのは好きだけど、でも苺ゼリーとミルクを一緒にっていうのは・・・うん、ないな。ないない。


 一人考えにおちいっていた私の前に影がさす。

 ん? と顔を上げると、ジュレイが目の前に立っていて驚いた。

 瞬きする私の前で、彼は底冷えする強い瞳で挑むように私を凝視していた。


「・・・俺達じゃ満足出来ないって?」

「だって、ジュレとラテの組み合わせなんてそう無いでしょう?」


 気圧されそうになりながらも、当然と言葉を返す私をジュレイが品定めでもするかのように見下ろす。

 その背後から、ラテがやはり戸惑いを隠せない様子でこちらにゆっくりと歩み寄る。

 彼は口を開こうとして私と目が合うと、上手く声を出せなかったのか、視線を逸らして一度咳払いをした。

 気を取り直すように、逸らしていた視線を上げ、こちらを真っ直ぐに見つめる。

 その頬には取れない赤味が残ったまま。


「・・・我々もそのような経験は勿論無いですが」

「そうよね、普通は無いよね。ラテとジュレって食べ合わせ悪そうだもの」


 飲み物と食べ物のセットとしてはいいだろうけど、ミルクとゼリーでしょ。

 そんなのそうそう無いわよねと続けて言おうとしたが、目の前の男、ジュレイの表情が何とも形容しがたい・・・いや、たぶんこれは凄く怒って、る?


「この俺が魔族風情にコケにされたもんだ・・・」


 吐き捨てるように呟かれた言葉は低く、嘲笑うような笑みがジュレイの口元に浮かぶ。


「お前が俺を満足させられるって? はっ試してもらおうか」


 言うなり、彼の太い腕が私の襟首を掴む。

 ぐいっと力任せに引き寄せられ、えっと目を見開いた私の瞳に、彼の怒りに満ちた三白眼が間近に飛び込んできた。

 頭で理解するより先に咄嗟に前に出た腕が、厚手の布地の上からでもわかるかたい男の胸板を押す。

 けれどそれ以上に強い引き寄せられる力に、瞬きする事も出来ず・・・


 ちょっ待っ!


「ジュレイッ!」


 バアアンッ


 ラテの焦った声と同時に私の耳に飛び込んできたのは、扉の開く大きな音。

 ジュレイの唇が私のそれにぶつかるほんの1センチ手前で、彼もまた急な音に驚き、その動きを止めた。

 二人して、その至近距離のまま、音が響いた後方の扉へと視線をずらす。

 するとそこには、銀色の鬣を大きく振るわせたジーヴィストが立っていた。

 こちらの状況を確認した彼の藍色の目が、はっきりと怒りの色を帯びる。


「銀狼・・・!」


 ラテが目を見開き、ジーヴィストへ警戒心をあらわにして向き直った。

 ジーヴィストはそんな彼に見向きもしないで、ひたりとこちらというか、私を見据えて口を開く。


「・・・食は済んだのか?」


 彼の低く唸るような声音に、私の襟元を掴むジュレイの手に力がこもった。


 く、苦しいっていうか、ちょ、服に皺が寄るからやめてー!


 なんて言えるような雰囲気ではなく、なんて言っていいかわからず、こくんと唾を飲み込んだ。

 ジーヴィストから視線を外して、目の前の男に視線を移してみれば、ジュレイはいつもの怖い三白眼でジーヴィストの事を睨み返している。


 な、何でこんな喧嘩腰なの、この人。

 いや、私がさっき挑発したせいもあるのかしら・・・?

 私的には役になりきった軽いジョークのつもりだったんだけど、あれー?

 と、とにかくここは落ち着いて。


 男達三人のあからさまな警戒心と怒りの空気が満たすこの場に気圧されそうになりながら、私は懸命に言い訳を考える・・・わけなんだけれど。

 こんな時人ってあれよね。


 わあ、なんだか、浮気がバレた女みたい☆


 なんて思っちゃう自分の頭どうにかしたい・・・!!


 一瞬、自己嫌悪におちいりながらも、はあっと溜息をついて目を閉じる。


 ここはなりきりコスプレ会場、ここはなりきりコスプレ会場。

 私は今サキュバスキャラ、妖艶で男をたぶらかす自信に満ち溢れたサキュバス・・・!


 よしっと気合を入れて目を開けた。

 目の前には、顎鬚と恐怖の三白眼が気になるけど、まあ整った顔立ちの男の顔。

 今恐怖の三白眼はジーヴィストに向いている。

 ジュレイの胸元に置いていた腕を持ち上げると、彼が反応するよりも早くにその頬に手をあてて、素早く彼の頬に自分の唇を押し当てた。


「・・・なっ」

「ごちそうさま」


 驚き、襟元から手を離してこちらを見下ろしたジュレイに、にっこり笑って彼の胸元を押す反動を利用して、彼と密着していた体と体を離す。

 手の甲でぐいっと頬をぬぐうジュレイに若干いらっとしたけれど、そんな姿を見ると、逆にこっちは更に落ち着くというものです。


 してやったりみたいな感じ?


 本来の自分だったら、ぎゃあああってなるところだけど、この場の雰囲気にたぶん私も半分以上のまれているんだと思う。

 頬にちゅうして嫌そうに即拭われたのを根に持ってるわけじゃないわよ。

 ええ、私の笑顔もちょっと張り付いた感じになりますけど?


「残念だけど、ジュレは私の好みじゃないのよね」


 思わずそう言ったら、彼の恐怖の三白眼がぎろりと凄みを増した。ひえっ

 そんな心の動揺を読まれまいとしながら、ジュレイから離れゆっくりとラテに近付く。

 彼もまたこちらを驚きの目で見ていたけれど、私が近付くとぱちぱちと瞬きして、その喉元がこくりと動いたのに気付いた。

 ジュレイと違って、こっちは本当反応がなんか初心というか可愛いっていうか・・・


「ユーア・・・」


 すっとラテに向かって手を伸ばすと、ぴくっと彼の背筋が反応する。

 私よりずっと背が高く、綺麗に整った顔立ちの男の反応じゃないわよね、本当。

 彼の頬にある擦って出来たような薄い傷に指を這わせると、戸惑いの満ちた瞳と目があった。

 それに微笑みかけて、背伸びをして頬を寄せる。

 あと少しで、彼の頬に唇が触れかけた、その時だった。


 扉の外で盛大な歓声が上がったのは。


 それは私がこの場所の本当の意味を知る、幕開けの歓声だったのかもしれない。





久々に出番きたと思ったらユーアの浮気現場直撃っ!!

どんどん不憫になってくなうちの銀狼ちゃんは・・・(遠い目

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