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―ラグナ―

ラグナ―過去の英雄―

作者: ウラン

こちらはリレー企画『輝ける星光』の関連作品です。

今作の作者はウランです。

 空が赤い。夕日かと思ったら違った。

 それは爆撃の輝き。

 ――終末戦争、のちにそう呼ばれる真っただ中に私はいた。

 強く輝いた、と思ったら遅れて爆音、そして振動が私たちに伝わる。

 シェルターの中すら、不安に包まれている。

 また爆音、避難してきた周りの人々の誰かが悲鳴を上げた。

 子供の泣き声が場違いに響く。中には大人の男の声も含まれていた。

 ――地獄だ、と誰かが言った。

 それを聞いて私はふと、こんなことを思った。


 ――私達が妨げようとした地獄とは、こんなにも生易しいものだったのか、と。





 白い天井、私の目にはそれだけが意味もなくうつっていた。

 白い髪に白い肌、白いズボンに白衣、靴までもが真っ白。

 ただ、茫然と開かれた瞳だけが黒の輝きを放っている。

 身長は低めで、醒めた表情が対象的だった。

 白の少女は――ごめん、自分で言ってて痛くなってきた。

 そんなこんなで、私ことラグナ……なんだっけ? まぁいいや、とにかく私は高機動魔導飛翔艦『アストライア』の病棟煉の一室のベットに横たわっていた。

 ベットに横たわっているからといって、別に体調に問題があるわけではない。

 ただ、この高機動魔導飛翔艦、でかさの割に人がいなくて仕事がないのだ。

 あ、私って救護班所属だから、ってか白衣でわかるよね? つーかわかれ。

 まぁうん、そんなわけで、勤務時間とはいえやることもないのに仕事仕事言ってるよりも、こうして体力を温存して非常時に備えるべきと判断した賢い私はサボタージュ、じゃなかった戦略的休息と決め込んでいるわけである。

 ――決して、雑用が面倒だったとか、そういうことではない。ないったらない。

「ラグナ! またこんな所でさぼって!」

 ちっ、ばれたか。

 このひとは先輩、名前はまだない。

 服装は私と同じだが、この先輩はまっピンクのちょっとアレな髪色をしている。

 ……まぁ、そんな感覚もあの頃(・・・)だけのものであって、今では特に珍しいこともないのだが。

「……さぼるも何も、仕事がない」

 今の私ね。無愛想? 何が悪い。

「まったく、それでも勤務時間くらいシャキッとしていなさい、シャキッと。腕は確かなんだから」

 先輩はいたって真面目である。

「……してる」

「していません!」

 まーねー。

「というか、たった今あなたに仕事が来たわよ」

 えー、かったるい。

 が、先輩の手前、そんなことは言えないだろう。

 私は観念して、その仕事とやらを聞くことにする。

「入ってきて」

 と、先輩が指示すると、見知った男が入ってきた。

 優雅な弧を描いた眉と、長い睫毛を湛えた二重瞼。高くはないが形の良い鼻に、艶やかな潤いを持つ唇、奥行きがあり不思議な光沢を放つ朱色の瞳。うなじを隠す程度の蒼い髪。

 華奢な体に人のよさそうな細面が、善良な人となりを感じさせている。

 ……ありていに言うと、女顔だった。

 ぶっちゃけ、私よりも美人さんである。

 てかさー、この高機動魔導飛翔艦、女顔多すぎない? コイツといい、艦長といい。

「やあ、ラグナ」

「……こんにちわ」

 コイツの名は霧川きりかわなんとか。戦闘要員という物騒なとこに所属している17、8くらいの男だ。

「……今日は何?」

「いや、ちょっとしくじっちゃってさ」

 見ると、足を少し火傷している。

「……ん、わかった。先輩、アレとって」

「わかったわ」

 先輩が部屋を出ている間、私は霧川の足を見る。

「……ただの火傷、大したことない」

「そっか、それは良かった」

 ということではあったが、これは霧川がヘタレというわけでは……ない、と思う。


 霧川がアストライアに入艦した時、彼は右腕にかなりの傷を負っていた。

 一応魔法による処置は施されていたようだったが、右肩の火傷が気になり調べてみると、毒性の高い毒液によるものだったみたいだ。

 それで私が対抗剤を調合してくれてやると、何かとコイツは私を頼るようになってきた。


「持ってきたわよ」

 先輩が戻ってきた。

「……ありがとう、ございます」

 とお礼をいいつつ、霧川の傷に大した問題がないことを告げる。

「えー、持って来損じゃない」

「すいません、リーナさん」

 と霧川。

 ……リーナ? あぁ、先輩の名前か。

「ま、何もないにこしたことはないけどね」

「おっしゃる通りで」

「……霧川、そこに寝そべる」

 霧川は了承して、近くのベットに横たわった。

「……うつ伏せ」

 霧川は言う通りにし、私はマッサージを始める。

「ラグナ、僕はどこも凝ったりしていないから大丈夫だよ」

 霧川が指図してきやがったので、私は抗議してやった。

「……マッサージが効くのは、身体面のみではない。……霧川、超能力サイキックを使ったろう?」

「……うん」

 そう言うと奴はおとなしくなった。

 そのうち、霧川は寝息を立て始め、私はマッサージをやめて、先輩が毛布を掛ける。

 霧川の寝顔は年相応で、戦闘時の彼を思わせないほど安らかだった。



 終末戦争から、実に3000年の時が過ぎた。

 にも関わらず、私は当時のまま。

 その理由は……いや、やめておく。

 私はここの生活をそれなりに気に入っているのだ。

 この艦内でのんびりと過ごし、たまに霧川を護衛に町に出てたり、こうやって心や体の治療を施したり。

 魔物などがいるが、そんなものは私以外のだれかが倒してくれる。

 あの頃と比べると、実に怠惰なものだ。

 でも、いいじゃないか。

 もう、世界を救う英雄ヒーローの真似事など、する必要もないのだから。

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