25年目の告白、同級生を校庭に埋めました。
私はどこにでもいる普通の中年男です。誰からも気に留められない存在です。普段は自営業をしています。最近の不況で、苦しい生活をしています。誰か仕事をくれませんかね。なんでもやります。本来は清掃業なんですが、そんなことは言ってられません。工事現場の仕事でも、動物の死体の処理でもなんでもやります。あ、死体処理で思いだしました。私が、だいたい25年前に同級生を埋めた話をしているんでしたね。失礼、ちょっと水を一杯。
ゴクリ
ふう、おいしい水ですね。なんの話でしたっけ?あ、そうそう同級生の話でしたね。ちなみに、取調べでは自供しそうな被疑者には水をあげないジンクスがあるらしいですね。有名な漫画で言ってたんですけど、本当なんでしょうか。水をあげると、水と一緒に言葉を飲み込んでしまうとか。そのくらいで飲み込むなら、はなから話す気がないんですよね。分かりますか。見てください、私なんて水を飲んでも全然話しているでしょう。ちょっと失礼、やたらと喉が渇く。
ゴクリ
あの日のことは今でも夢に見ます。罪悪感とかではないんです。ただ、夢に出てくるんです。下手くそな埋め方で、見ているとヒヤヒヤするんです。こんなんじゃすぐに見つかるだろうなと。でも、目が覚めて気がつくんですよね。あんな埋め方でも見つからないものなんだなとね。ちょっと失礼。
ゴクリ
2001年12月25日、世間ではクリスマスでした。私の家ではクリスマスは祝いません。親父が偏屈だったんですよ。日本人だと言っていました。正月も祝わないから言ったことがあるんですけど、黙って殴られました。要するに、ただのケチだったんでしょうね。そのくせ、母さんの誕生日だけは盛大に祝福してました。私の誕生日は覚えてもいません。母さんも、特に何も言いませんでしたね。変な家族だったんですよ。ちょっと失礼。
ゴクリ
朝から雪がちらつく日でした。高校は冬休みで、その日は朝から暇を持て余していたんです。あれ?私が工業高校出身なのは、話しましたっけ?私は、工業高校出身です。そう言うと、みなさん機械とか電気とかを想像するのですけど、私は違います。あ、建築科でもないですよ。私は工業化学という学問を学んでいました。
ゴクリ
今振り返ると、変な高校でしたね。軍隊みたいでした。月に一度、教育週間というのがありましてね。朝、登校すると、教師が全員校門から昇降口まで、ずらっと並んでいるんですよ。一人一人に、『おはようございます』って頭を下げていくんですよ?笑っちゃうでしょ?
ゴクリ
あいつは、私の唯一の友達でした。人付き合いが苦手でしてね。小中ではいじめられていました。そんな私が何気なく話せるのがあいつでした。
ゴクリ
そうそう、言うのを忘れていましたよ。校長先生が一番危険な人でしてね。柔道六段なんですけど、オリンピック代表選考選手だったとか。76kg級の人でしたね。目つきが、裏社会の人間のそれでしたよ。教師たちからも恐れられていましたね。生徒指導部の鬼教師たちが、可愛く見えるくらいでしたね。
ゴクリ
校庭で会う約束をしていたんです。あいつと。あいつ、自転車でやってきましてね。いつもみたいに屈託のない笑顔で私に近づいてきました。だから、あいつの好きなカマキリを見つけたフリをして、草むらに誘いましてね。しゃがんだところに、後ろからスパナを振り下ろしましたよ。あいつ、何が起きたかわかんなくて、困惑した顔してましたね。
ゴクリ
困惑した顔にスパナを振り下ろしたときのあいつの顔、今でも忘れられないんですよね。そういえば、あの時もペットボトルの水を一口飲みました。無性に喉が渇いたんですよね。
ゴクリ
返り血を浴びて、シャツが赤く染まって綺麗でした。でも、帰りはどうしようか困ったんですよ。ふと、思い出しましてね。あいつ、夜のクリスマスパーティーで、サンタのコスプレするって言ってたんです。案の定、サンタの服が荷物にありました。もう、心配はないですから、あとは埋めて帰ろうと思ったんですよ。
ゴクリ
あいつ、お調子者でしたね。クリスマスパーティーも、家族でするだけなんですよ。普通やります?家族パーティーでコスプレ?私には理解できないタイプでしたね。
ゴクリ
そうそう、生徒指導部の先生で、岡部って人がいましてね。山岳部の顧問をしているマッチョマンでしたね。50を越えているのですけどね。良い筋肉してましたね。
ゴクリ
柔道部の顧問で、裏ではビッグフットって呼ばれてる教師もいましたね。身長が190くらいあって、体重も180くらいあるんですけどね。
ゴクリ
どっちの先生も、校長の前では直立不動でしたね。強者だと、逆にオーラで勝てないのが分かるらしいですよ。私には全然分からなかったですね。
ゴクリ
穴はもう掘ってありました。1m以上掘らないと、匂いでバレるらしいので、冬休みに入ってから、ずっと掘っていたんですよ。あと、石灰も準備しておきました。うちの高校は野球が盛んでしてね。ライン引き用に、石灰はたくさん倉庫にあったんですね。だから、1学期から少しずつくすねて、人ひとり分くらいの石灰がありましたね。
ゴクリ
穴の中にあいつを転がして、上から石灰をたっぷり撒いたんです。そしたら、あいつの手が少し動いたんですよ。まだ生きてたんですね。大事なことを確認してませんでした。でも、石灰をかけるでしょ?するとね、全部白くなるから、動きが分かりやすくなったんですね。ただの腐敗促進と臭い防止だったんですけど、石灰にはそんな副作用もあったんですね。覚えておくといいですよ。
ゴクリ
念入りにスパナを打ち付けました。何回目かで、明らかに違う感触がスパナから伝わってきました。もう大丈夫だなと、その時思いました。上から土をかけたら、もうあいつは見えなくなりました。当たり前なんですけどね。ああ、もう気軽に話せるやつはいないんだなと思ったら、少し悲しくなりましたね。それから、土の上に砂をかけてきれいにしました。グラウンドの表面に使われている砂と似たものをホームセンターで購入したんです。
ゴクリ
ちゃんと聞いてます?せっかく話してあげてるのだから、聞いて下さいよ。2度目はないですからね?
ゴクリ
サンタのコスプレをして、あいつの自転車を草むらに隠しました。あいつの荷物から携帯電話を取り出して、あいつの家族にメールを送ったんです。『サンエーホビーに行ってくる。』
ゴクリ
『サンエーホビー』っていう店がありましてね。プラモデルをよく買いに行ってました。池袋にあるんですけど、2人で行ったり、池袋で待ち合わせしたりしてました。その日は、サンタの格好で電車に乗って、池袋まで向かいました。途中の無人駅で一度降りました。昔は今みたいに、監視カメラもあまりなかったんですよ。それに、自動改札機もほとんどなくて、ICカードを読み込む機械が、地面からにゅって生えていたんです。笑っちゃいますよね。キセルなんてやり放題でしたよ。そこの改札口の外にトイレがあるんです。だから、トイレの窓からあいつの携帯電話を捨てました。
ゴクリ
また電車に乗って、池袋に行きました。あいつと待ち合わせのふりをしていたんです。退屈でしたよ。来るはずがないやつを、真剣に待つふりするのは、途中で何回かあいつの携帯にかけました。出ないのは分かっているんですけどね。池袋の駅前で、公衆電話から2回かけました。私は携帯を持っていないので、公衆電話からかけたんです。もちろん、防犯カメラに写るためでもあります。それから『サンエーホビー』に行って、あえて店長と話しました。『今日はあいつ来てないですよね。』とか、『あいつ約束忘れたのかな。』とか言っておきました。
ゴクリ
そういえば、ずっとサンタだったんですけど、誰にも何も言われなかったですね。街中にサンタが溶け込める日本社会ってなんなんでしょうかね。考えたことあります?ティッシュ配りサンタ、デリバリーサンタ、カップルのサンタ。返り血を浴びたサンタ。サンタってなんなんですかね。
ゴクリ
電車で家に帰って、薄暗くなってから、あいつの自転車を捨てに行きました。わざと見つかりやすい河川敷に捨てておきました。
ゴクリ
家に帰ったら、あいつの親から電話がかかってきましたね。まだまだ焦った声ではなかったのが印象的でしたね。あいつが遊んでると思っていたんでしょうね。もっと慌ててやった方がいいのにね。まあでも慌てても、すでに遅いから関係ないですね。
ゴクリ
2日後に警官がうちに来ましたね。だから、『あいつが待ち合わせに来なかった』って言っときましたよ。警察は失踪事件として捜査してましたね。私の証言の裏どりもしたんですかね。捜査状況なんて分からないから楽しかったですよ。自転車も見つかったんじゃないですか。たぶん。私の指紋もあったでしょうけど、そりゃありますよね。友達でしたからね。
ゴクリ
あいつの上で体育の授業を受けるのは面白かったですね。
ゴクリ
教室からグラウンドが見えるんですよ。あいつを埋めた場所もなんとなく分かるんです。見てて面白かったですね。
ゴクリ
そういえば、担任の先生の名前は言いましたっけ、山口先生です。ラグビー部の副顧問でしたね。熱血教師でしたよ。
ゴクリ
もう、言い残したことなかったですかね。
ゴクリ
聞きたいこと、まだあります?
ゴクリ
なぜ、この話をしたかですか?
ゴクリ
なぜって、たまに自慢したくなるじゃないですか。だからですよ。でも、誰かに言うと、もう誰にも言えなくなっちゃうんですよね。だから、こうしてあなたみたいな人に言うことにしてるんです。あなたなら、もう誰にも言わないでしょ?
ゴクリ
今日みたいな日は、ペットボトルの水を飲みたくなるんですよね。
ゴクリ
不景気なんでね。どんな仕事でもやりますよ。それにしても、喉が渇く。
ゴクリ
ゴクリ
ゴクリ




