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あすかの幸せについて  作者: こうた
第4章 寂しさを思い出す秋

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第2話 返信のない夜

返信が来ない夜は、静かすぎる。



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音がないのではなく、


意味のある音だけが消えていく。



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あすかはベッドの上でスマートフォンを握ったまま動けなかった。



---


『久しぶり』



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悠真からの短いメッセージ。



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それに返した『お久しぶりです』から数時間。



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それ以上、何もない。



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時間は進んでいるはずなのに、


その一文だけが宙に浮いたままだった。



---


返信を待つという行為は、


思っていたより重い。



---


昔は気軽だった。



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来れば嬉しい。



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来なければそれだけ。



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でも今は違う。



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来るか来ないかで、


心の形が変わってしまう。



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あすかは画面を何度も開く。



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新しい通知はない。



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分かっているのに確認してしまう。



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それを何度も繰り返す。



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夜は深くなる。



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時計の音だけが部屋にある。



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静かすぎる。



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その静けさの中で、


考えたくないことまで浮かんでくる。



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もしかして。



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もう終わっているのではないか。



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あの時の「距離を置く」という言葉は、


そのまま終わりの言い換えだったのではないか。



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そう思った瞬間、


胸の奥が冷たくなる。



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でもすぐに否定する。



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違う。



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まだ終わっていない。



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そう信じたいだけかもしれない。



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それでも信じるしかなかった。



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翌日。



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仕事はいつも通り進む。



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表面上は何も変わらない。



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でも集中が途切れる。



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小さなミス。



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ため息。



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それを繰り返す。



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同僚に軽く声をかけられる。



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「大丈夫?」



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「大丈夫です」



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そう答えることだけが上手くなっていく。



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夜。



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「人生の交差点」



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扉を開ける。



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カラン。



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マスターはすぐに気づく。



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「眠れてない顔だね」



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あすかは少し笑う。



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「そんなに分かります?」



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「分かる」



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席に座る。



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グラスが置かれる。



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少しだけ苦い香り。



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今の気分に合っている気がした。



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悠真はまだ来ていない。



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それでも今日は前ほど不安ではなかった。



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不思議なことに。



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“来ないかもしれない”という想像に慣れ始めていた。



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そのことが少し怖かった。



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扉が開く。



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カラン。



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心臓が跳ねる。



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反射的に顔を上げる。



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でも違った。



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知らない客だった。



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あすかは静かに視線を戻す。



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その一瞬の反応が、


自分でも分かるほどだった。



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マスターが小さく笑う。



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「分かりやすいね」



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「……何がですか」



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「待ってる人がいる顔」



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否定できなかった。



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時間が過ぎる。



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悠真は来ない。



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連絡もない。



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ただ夜だけが進んでいく。



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帰り道。



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あすかはスマートフォンを開く。



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何もない。



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分かっている。



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でも見てしまう。



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駅のホーム。



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電車を待つ間、


人が流れていく。



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その中で、


ふと視線を上げる。



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一瞬だけ。



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遠くの改札に、


似た背中が見えた気がした。



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心臓が跳ねる。



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でもすぐに違うと分かる。



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他人だった。



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それでも、


しばらく目が離せなかった。



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電車が来る。



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ドアが開く。



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あすかは乗り込む。



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扉が閉まる。



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また静かになる。



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恋は、


終わった瞬間よりも、


終わりかけている時間の方が長い。



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そしてその時間は、


人を少しずつ変えていく。



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あすかは窓に映る自分を見る。



---


少しだけ疲れた顔。



---


でもまだ、


どこかで待っている顔だった。



---


秋の夜は深くなる。



---


そしてあすかの夜も、


まだ終わらないまま続いていた。



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第4章 第3話「すれ違いの始まり」へ続く

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