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あすかの幸せについて  作者: こうた
第10章 定義の圧力

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第7話 再会(無言)

再会は、必ずしも言葉を必要としない。



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むしろ言葉があると、


かえって不自然になることもある。



---


十二月下旬。



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空気はさらに冷たくなっていた。



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「人生の交差点」。



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カラン。



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扉が開く。



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あすかは顔を上げる。



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そこに、朝比奈がいた。



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少しだけ間があった。



---


まるで、


ここに入ることを一度確認してから入ったような動きだった。



---


「こんばんは」



---


あすかが先に言う。



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朝比奈は一瞬だけ止まり、


そして答える。



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「こんばんは」



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それだけだった。



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いつもと同じはずの言葉。



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しかし今日は、


その響きが少し違っていた。



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朝比奈は席に座る。



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グラスが置かれる。



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マスターは何も言わない。



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ただ静かにグラスを拭いている。



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沈黙。



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しかしそれは、


以前の沈黙とは違っていた。



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説明されていない空白が、


そのまま残っている。



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あすかは朝比奈を見る。



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しかしすぐに視線を外す。



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見続けることが、


少しだけ怖かった。



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朝比奈は本を開かない。



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グラスを見ている。



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その姿はいつもと違う。



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しかし何が違うのかは言葉にできない。



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しばらくして朝比奈が言う。



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「少し、間が空きましたね」



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あすかは答えるまでに少し時間がかかる。



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「そうですね」



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それだけ。



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その会話は終わりだった。



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しかし本当の意味では終わっていない。



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言葉にされなかった部分が、


そのまま残っている。



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あすかは気づく。



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この再会は、


“通常の再開”ではない。



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関係の確認でもない。



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ただ、


止まっていたものが再び動き始めた瞬間だった。



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しかしその動きは、


以前と同じではない。



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朝比奈はグラスを持つ。



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その手は少しだけ慎重だった。



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あすかはその動きを見ている。



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しかし何も言わない。



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言葉にすると、


何かが確定してしまう気がした。



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沈黙が続く。



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しかし今夜の沈黙は、


以前の安定ではない。



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不在のあとに戻ってきた沈黙。



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そこには、


説明できない距離が含まれている。



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やがて朝比奈が言う。



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「そろそろ帰ります」



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あすかは少しだけ遅れて答える。



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「お疲れさまです」



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朝比奈は軽く会釈する。



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扉へ向かう。



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カラン。



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扉が閉まる。



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静寂。



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あすかはグラスを見つめる。



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再会は成立した。



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しかし、


以前の関係が戻ったわけではない。



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むしろ、


“戻れないこと”が確認されたような感覚だった。



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関係は続いている。



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しかしその形は、


もう同じではない。



---


あすかは小さく息を吐く。



---


そして思う。



---


これは修復ではない。



---


再構築でもない。



---


ただ、


変化した関係の再接続だ。



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(第10章 第8話へ続く)

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