コアラはお好き?
次の日。
今日もなぜか美嘉の愛想がいい。一体何があったの? 父さんや母さんに聞いても「さあ?」って感じだし、テストの成績が良かったわけでもなさそう。(それはそれで問題だが)
まあ、朝からトゲトゲしているうざい妹よりは、可愛い(まだそこまでは言いたくないけど)妹の方がいいに決まってるけど。
今日は余裕を持って起きたので、走らずに駅へ到着。
すると、昨日以上に鏡子ちゃんが引っ付いてきた。
あ、そうだ。シャンプーとリンス、昨日聞くのを忘れてたんだ。
鏡子ちゃんに教えてもらった銘柄、今のが無くなったら変えてみよう。
これで少しは美人の仲間入りができるかな? ……自分で言ってて虚しいけど。
そして、運命の校門が近づいてきた。
……あ、優花里先輩がいる。 鏡子ちゃんの腕の力がどんどん増していく。痛いよ、鏡子ちゃん。
あれ? でも、今日の優花里先輩、なんだか笑顔だ。 ちょっとぎこちないけれど、あの先輩の笑顔なんて初めて見たよ。レアすぎる。
「おはようございます」
「おはよう、美山さん」
わたしだけなぜか名前呼びだけど、今日は呼び止められることはなかった。
「鏡子ちゃん、これでもう脅威は去ったんじゃないの…?」
「サキちゃん、ここで気持ちを緩めちゃダメ。蟻の一穴、天下の破れだよ」
「へ? いっけつ?」
意味はわからないけど、多分ことわざなんだろうな。
鏡子ちゃんは物知りだなぁ、さすが学年一位だ。
「ねえ、でもここまでがっしりガードしなくても良さそうな……」
「だめ! 取られちゃうから」
いや、取られないでしょ!誰が盗みにくるの? わたしの気持ちを? ルパンかよ!
お昼休み。
さすがの鏡子ちゃんも、今日のお昼は「中庭にしよう」と言ってくれた。
せっかくの快晴だし、外で食べるのは気持ちいいもんね。
茜と三人でだべりながらお弁当を食べていると、渡り廊下を歩く鈴木生徒会長と優花里先輩が見えた。
学校ツートップ美人の2人が並んで歩いていると、美しすぎて目が潰れそう。
そりゃあ生徒の人気を二分するわけだよなぁ。
周りの生徒もみんな2人を見てるし。
(……その一人に妙に執着されてたわたしって何なんだろ? すぐ横にも『執着の権化』みたいな鏡子ちゃんがいるけど。もしかしてわたし、モテ期来てる? 2人とも女の子だし、鏡子ちゃんは親友だけど……)
なんてことを思っていると、優花里先輩がこちらをチラッと見て、笑顔を見せようとしてくれた。
でも、恥ずかしそうにすぐ下を向いちゃっている。
対して鏡子ちゃんは、また腕の力が増してきてる。も〜痛いってば。
その後は何事もなく、放課後。
鏡子ちゃんはクラス委員の会議があるらしい。
「サキちゃん、待っててくれる?」と懇願されたので、私は図書室で待つことにした。
ここの図書室ってラノベが多めに置いてあるんだよね。
何か面白そうなのあったら借りようかな……と棚を眺めていたら。
「あら?」
という声が聞こえて振り向くと、そこには優花里先輩がいた。
ぎこちない笑顔を浮かべて、「美山さん、昨日はごめんなさいね」と先輩。
「いえいえ、こちらこそ。ところで昨日は何だったんですか?」
「え? 昨日……」
先輩は真っ赤な顔でしどろもどろに。
……なんか、この人こういうところ、いちいち可愛いな……校内一のクールビューティーのこんな顔、滅多に見られない、レアだよ。
ガチャでいうとSSRってやつ?ゲームしないからよく分からないけど。
「はい、ここなら(鏡子ちゃんもいないし)大丈夫ですよ」
わたしが促すと、先輩は意を決したように口を開いた。
「あ…あの……『コアラ』…………って好き?」
「??? あ、はい。可愛いので好きですね」
「そ、そう……良かったわ。それじゃあ」
え? それじゃあ? コアラが好きか聞かれただけ? 昨日もそれが言いたかったの?
「…うーん、よく分からない人だなー」
「サキちゃん!」
あ、鏡子ちゃん。会議終わったんだ。
「伊藤先輩と話してなかった?」
なんか怒ってる?鏡子ちゃんの目が、笑っていない。怖いよ……
「うん……話したけど?」
「何話したの!?」
「え? コアラ好きかって……」
「本当にそれだけ?」
「は、はい、それだけです」
「本当?」
疑り深いな〜、「本当だよ! 」
「……そうなんだ、良かったー!」
鏡子ちゃんはパッと明るい表情になった。
一体、他に何を話すと思ったんだろう? 鏡子ちゃんは何をそんなに恐れてるんだろう?
しかし、わたしに強くしがみつく鏡子ちゃんの胸の内は、波立つ水面のように穏やかではいられなかったのです。
鏡子ちゃんの締め付けがどんどん厳しくなっていきます。
何も気付かないのはサキのみです。
鈍感系主人公の本領発揮ですね。




