直接対決!?
次の日の朝。せっかくギリギリまで寝ていようと思ったのに、あのバカ妹が部屋に押し入ってきやがった。
「お姉! いつまで寝てるの〜! はい、起きる起きる〜!」
「ちょ! 美嘉、あと5分寝れるんだから……もうちょっと寝かせてよ〜!」
布団にしがみつくわたしを、美嘉は容赦なく引き剥がそうとしてくる。
「だめだめー! お姉そうやって二度寝しちゃうでしょ!」
「もー! バカ美嘉! 分かりましたよ! 起きるから向こう行ってて!」
低血圧気味のわたしは、渋々体を起こして美嘉が部屋を出るのを見送る。そして、彼女の足音が遠ざかった瞬間にベッドへダイブ…!
くそ! 扉の隙間から見てやがる!
「ほら、やっぱり! 早く起きてー!」
監視の目を逃れられず、私はふらふらしながら一階へ降りていった。
美嘉は朝練らしく、もう準備万端だ。
「お姉も部活入ったらいいのにー」
「わたしはちゃんと帰宅部に入部してるからいいんですよー!」
(まだ入部届出してないけど、気持ちは完全に帰宅部なんですよー!)
「はいはーい、じゃあ行ってきまーす!」
「ほーい、いってらー!」
玄関を出ていく美嘉の背中を見送る。なんだか今日はあいつ機嫌いいな、憎まれ口叩かなかったし。昨日何かいい事あったのかな?
夜はクシャミしてて風邪っぽかったけど…部活、大丈夫かな?
「サキ、早く食べなさいよー!」 台所からお母さんの美沙の声が飛んできた。時計を見ると、針は絶望的な位置を指している。
「あー、もうこんな時間! やばい! 遅刻遅刻ー! ってパンくわえて走る羽目になっちゃうよ〜!」
(でも出会いがあったらいいな〜!なわけないけど…)
私は急いで朝食を流し込み、カバンをひったくった。
「ごちそうさまでしたー! 行ってきまーす!」
「気をつけてね〜」
「はーい!」
駅までは全力ダッシュ。電車がホームに入ってくるギリギリのタイミングで、鏡子ちゃんと茜の前へスライディング気味に滑り込んだ。
「おはよ! サキ!」
「おはよう、サキちゃん」
「はあ…はあ…おはよう…」低血圧に朝のランニングはキツイ…
息を切らすわたしに、鏡子ちゃんがいきなり蛇の様に腕を絡めてきた。今日も朝からぴったりと密着状態だ。
「え?いきなりここから?鏡子ちゃん」
「当然だよ〜サキちゃんは私が守る!」
(う〜ん、かわいい…しかも鏡子ちゃん、今日も大きなお胸が当たってますよ!)
「お前ら恋人同士かよ…」
茜が呆れたように呟く。すると、その言葉になぜか鏡子がピクッと反応した。
(あれ? 腕が熱くなってきた。鏡子ちゃん、もう5月だし汗かいちゃうよ?)
「もー茜、何言ってんの。幼馴染は恋人にならないんだって! アニメとかラノベとかでもよくあるじゃん?」
わたしが笑いながらそう言った瞬間。
「痛っ! いててて! なんで鏡子ちゃん、腕つねるの? 痛いよ……」
なぜか鏡子が、私の二の腕をギュッとつねってきた。
見ると、彼女はほっぺたを膨らませて拗ねている。……というか、怒ってる? でも、その膨れた顔すら芸術品のように美しいのが、鏡子ちゃんのすごいところなんだけど。
「どうしたの、鏡子ちゃん、急に?」
「ん…何でもないよ、サキちゃん」
鏡子はニッコリと微笑んだ。でも、目が、目が全く笑っていない。
(鏡子ちゃん、ちょっと怖いよ…私、何か悪いことした?)
冷や汗をかきながら、わたしは鏡子ちゃんに引きずられるようにして電車に乗り込んだ。
その頃、学校の昇降口では、昨日のみっきん様からのDMで徹夜並みのテンションを維持している優花里先輩が、誰よりも早く風紀委員の腕章を光らせて待ち構えているなんて、今のわたしはこれっぽっちも思っていなかった。
知ってたら学校休んでたかも…
駅から学校への道すがら。鏡子ちゃんは電車の中にいる時以上になぜかぴったりとくっついてきていた。
「あのー、鏡子ちゃん。もう5月だし、そろそろ暑くない…?」
「ううん、わたしは大丈夫だよ、サキちゃん!」
一点の曇りもない笑顔で即答される。まあ、美人の鏡子ちゃんと密着できるのは嬉しいんだけど。
…ふわっと、すごくいい香りするし。
(私も同じシャンプーとリンスにしよっかな? 後で何使ってるか聞いてみよ)
そんなことを考えつつ歩いていると、少しずつ校門が見えてきた。
……あれ? なんだか校門のあたり、黒い雲が出てない? 私の目の錯覚かな?
「うわぁ! 東大寺南大門の仁王様…!?」(私日本史得意なんです!)
と、見紛うばかりに仁王立ちしている伊藤先輩と、10名ほどの風紀委員がズラリと並んで門番をしていた。朝からものすごい威圧感だ。
(ええと、今日は校章、曲がってないよね? スマホの画面を鏡代わりにして…うん、隈も出てない! スカート丈もヨシ、カバンの中身も変なグッズは入れてない! ヨシッ、今日こそOK!)
まさか鏡子ちゃんとくっついているから「不純同性交友」だなんて言われないよね…? わたしはビビりながら、極力目を合わせないように門を抜けようとした。
「おはようございますー、はい、通してもらいますー……」
「美山さん」
低く、有無を言わせぬ声。わたしは心臓が跳ね上がるのを感じた。
「はいーっ!」
「ちょっとこちらへ、よろしいかしら?」
(ええっ!? なんでなんで? わたし、何か悪いところあったの!?どこどこー?)
パニックになるわたしの横で、鏡子ちゃんの腕にぐっと力がこもるのがわかった。
「……あの、伊藤先輩」
鏡子ちゃんが、一歩前に出るようにして口を開いた。
「なにかしら?」
「失礼ですが、今日のサキちゃんに、何か風紀上の問題があるんでしょうか?」
優花里先輩の冷徹な眼差しと、鏡子ちゃんの静かな執着が混じった視線がぶつかり合う。
「問題? いえ、ないけれど」
「それでは、どうして呼び止めるのでしょうか」
「そ、それは…ちょっと、お話が…」
昨夜、みっきん(サキ)から「また明日から楽しくお話ししませんか?」という趣旨のDMをもらった優花里先輩は、もう朝から「サキ様とお話ししたくてたまらない」モードだったのだ。しかし、そんな事情を明かせるはずもない。
もちろんそれをわたしが知るはずもない。
「何のお話でしょうか。風紀に関わることでしょうか?」
「い、いえ。そうではないわ」
「失礼ですが、伊藤先輩とサキちゃんの間に、何かご関係が?」
「…いえ、特にないわ…」
鏡子ちゃんの追及は、まるで見えない壁を作るように冷徹だった。
「それでしたら、強制的に呼び止めることはできませんよね」
「…ごめんなさい。わたしが悪かったわ。…行っていいわよ」
優花里先輩は、悔しそうに、けれど自分を律するように一歩下がった。
「ありがとうございます。行こう、サキちゃん」
「う、うん……」
(鏡子ちゃん、こえー! よくあの優花里先輩に面と向かってあんな…この子、こんなに強気な性格だったっけ!?)
恐る恐る後ろを振り返ると、優花里先輩がまだこちらをじっと見ていた。氷の視線が怖い。背中が凍りつきそうだ。
(後で知ったが、その視線は、わたしではなく鏡子ちゃんへ、だったみたい)
「鏡子ちゃん、ありがとうね。助かったよ」
「ううん。何もないのに呼び止めるなんて、変だよね」
「そ、そうだよね」
鏡子はいつもの癒やしオーラ全開の笑顔に戻っている。でも、反対側を見ると、茜が唖然として口をぽかんと開けていた。
(うん、わたしも同じ気持ちだよ。茜、あんたもそう思うよね! わたしたち同志だよ!)
わたしたちは、嵐が去った後のような妙な緊張感を引きずったまま、教室へと向かった。
まだまだ戦闘力ではサキに近い鏡子の方が高いです。
優花里は今後それをどうしていくのか?お楽しみに!




