固い文書と全裸待機?!
「ただいまぁ〜、あぁ、疲れたぁ。美人にくっかれるのは嬉しいけど、周りの目に疲れたよ……美人って羨ましいけど、一日中ああやって視線を受けまくるんだろうな〜わたしってあんな美人でなくてよかったよ〜まぁそれはそれで悲しいけど…」
鏡子ちゃんに一日中ぴったりとくっつかれ、風紀委員の鋭い視線に怯えた一日が終わり、わたしはようやく自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。
本当ならすぐにでも『魔法乙女リリー』の録画を見返したいところだけど、どうしても気になることが一つあった。
わたしは恐る恐るスマホを取り出し、エンスタのみっきん垢を開く。
「うわぁ……嘘でしょ……なにこの惨状……」
そこには、昼休みからさらに加速したレスバの残骸が積み上がっていた。
コアラっ子さんと蜜柑ちゃん。この二人、一日中レスバしてるって一体何者なの?
「でもこれ以上ヒートアップすると、こっちにも火の粉が飛んでくるよね……うーん、それぞれにDMを送って、怒らせない様に別々に説得しようかな」
わたしは意を決して、まずはコアラっ子さんにメッセージを打ち込んだ。
『こんにちは、みっきんです。 いつも私の垢を見てくれてありがとうございます!蜜柑ちゃんとのレスバ、コアラっ子さんの考えもすごくよく分かります。
コアラっ子さんにも、色々なお考えはあると思いますが、一旦収めてもらって、次回を見てからまた話し合いませんか?
次回は大きく展開が変わると思いますので、そこでまた楽しく皆さんでお話をしませんか?
わたしもフォロワーさん同士で盛り上げるのはすごく楽しいのですが、リリーを好きなもの同士で最終回まで楽しくみんなで盛り上がっていこうと思ってます。
これからもみっきんの垢をお願いしますね。
みっきん』
「これでよしっと、蜜柑ちゃんにも同じ内容で送ろっと、って、うわっ! もう返信!?」
送信ボタンを押して一分も経たないうちに通知が飛んできた。この人、もしかして廃人なの……?
『拝啓
立夏の折、みっきん様におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
DMを頂きまして誠にありがとうございます。
みっきん様のお申し出、大変ありがたく承りました。
みっきん様のお優しい心遣いに、私コアラっ子は大変感銘を受けました。
私も蜜柑様との不毛な議論の終わりが見えず、苦慮いたしておりましたので、
みっきん様のご指示通りに、蜜柑ちゃん様とのやりとりは終息といたしたいと存じます。
お優しいみっきん様、今後ともよろしくお願い申し上げます。
敬具
コアラっ子』
「って、文章固っ! 社会人かよ! なのに社会人で一日中レスバって……あー、今日休みの人なのかな。こんな丁寧な文章ってどんな仕事してる人なんだろ? 公務員?文章的に20代くらいより上の人かな?」
まさかその正体が、目の下にクマを作って生徒会室で震えている優花里先輩だなんて当時のわたしには想像もつかなかった。
「あ、蜜柑ちゃんからも返信きた。なんでこの二人こんなに異常にレス早いの? 待ち構えてるの? こわっ!」
『みっきんさん、DMありがとう♡ みっきんさんに迷惑をかけたみたいで、すいませんでした〜!m(_ _)m次回のリリー楽しみですよね〜!( ^ω^ ) /どんな展開が来るのか全裸待機で待ってますね〜♡( ´ ▽ ` )』
「全裸待機って……いつの言葉だよ。顔文字も古いよ……おっさんかよ……?」
その時、壁を隔てた隣の部屋から「ハックチュンッ!!」と大きなクシャミが聞こえてきた。
「あれ? 美嘉、クシャミしてる。風邪でも引いたのかな?」
まさか自分の妹が「全裸待機♡」なんて送りつけているおっさん(疑惑)の正体だとは露知らず、わたしはスマホを置いてふぅと息を吐いた。
「まあ、これで収まりそうだし、垢も凍結されずに済みそうだな。みんな盛り上がってくれるのはいいんだけど、バトルはしないで欲しいよね。さあ、今度のテスト、茜ちゃんに負けないようにちょっとは勉強しますか…」
机に向かおうとしたわたしのスマホに、通知が飛び込んできた。
「あ、その前に『悪役令嬢ダンジョン探検、なんでわたくしいきなりデスゲームに巻き込まれましたの? 婚約破棄後はのんびり田舎でスローライフをしたかっただけですのに!?』の最新話の配信が始まった! ……よし、これを見てからにしよっと!」
結局、わたしのペンが動くのは、もう少し先になりそうだった。
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予備校からの帰り、迎えの車が待つ駐車場へ向かう途中で、スマホを開いた優花里は、その場で凍りついた。
「え……? あ、あ……いきなり、みっきん様からの直接のDM!?」
心臓が口から飛び出しそうなほどの衝撃。冷徹な風紀委員長の仮面はどこかへ吹き飛び、優花里は画面を食い入るように見つめた。
「蜜柑様とのレスバを収めて欲しいとおっしゃるのね……ああ、なんて優しくて慈悲深いの……これほど無礼な言い争いをしていたわたしにも、こんなに丁寧な言葉をかけてくださるなんて。すぐに返信しないと、あまりに失礼よね!」
優花里は震える指で、一字一字、敬意をこれでもかと詰め込んだ返信を打ち込んだ。その表情は、まるで聖母への言葉を紡ぐ信者の様に恍惚としている。
「これでお申し出を飲めば、わたしは『聞き分けの良いフォロワー』になれる……そうすれば、また明日から胸を張って学校で美山さんに会って、声をかけることができるわ。ああ、良かった……!」
歩道の真ん中で一人でスマホを握りしめて頬を赤らめる美人の姿は、周囲の目を釘付けにしていたが、今の優花里の耳には周りの喧騒すら届いていなかった。
一方、美山家の隣の部屋。 美嘉はベッドの上で胡坐をかき、「次こそあのアホコアラを黙らせてやる……」と執念深くスマホを構えていた。そこへ届いた、みっきんからのDM。
「お姉……わざわざ気遣ってくれたんだ。ふん、相変わらずお人好しなんだから!でも……まあ、こういうところが、お姉の良いところなんだよな」
美嘉は口角が下がるのを必死に抑えながら、返信の文面を考えた。
「せっかくのDMだし、ちょっとネットに詳しい感じの言葉を入れてみようかな。えーっと、確かトゥイッターでみんながすごく待ち侘びてる時に使ってた言葉…あ、『全裸待機』ってやつ、これ良さそう。よし、送信!」
満足げにボタンを押した直後、美嘉の背筋にゾクッと冷たいものが走った。
「あれ? なんだか急に寒気が…ハックチュンッ!! 変なの……まっ!冷えないうちにお風呂入ろっと!」
自分が送った言葉が、実の姉から「おっさんかよ」とドン引きされているとは夢にも思わず、美嘉は鼻を啜りながら浴室へと向かった。
それぞれの正体も知らぬまま、それぞれの想いが交錯する夜が、静かに更けていくのでした。
ラブコメでは主人公がどうしてヒロイン達に好かれたのか?というところを大切にしたいと思っていますので、これから少しずつ、それぞれのきっかけを紹介出来たらと思っています。




