みっきんアニメ垢大炎上?!
「ふわぁ……、おはよ、鏡子ちゃん、茜……」
翌朝。
駅前の待ち合わせ場所に現れたわたしは、大きなあくびを一つ。
昨夜は『魔法乙女リリー』の神回の余韻で夜更かししてしまったけれど、推しが夢に出てきてくれたおかげで気分は最高だ。
「おはよう、サキちゃん。……なんだか今日は、いつも以上にニコニコしてるね?」
鏡子ちゃんがわたしの寝癖を指先で整えながら、慈しむような微笑みを向けてくる。
「あはは、バレた? 実はね、昨日のアニメが本当にもう、言葉にできないくらい最高で——」
「はいはいサキ、アンタって結構アニメ好きだもんね。でも歩きながらその話するとまた電柱にぶつかるよ」
茜が呆れたようにわたしの背中を押す。茜はわたしのことを「普通にアニメが好きな子」だと思っている。まさか私がSNSで数万人のフォロワーを持つ有名垢だなんて、夢にも思っていないだろう。
(危ない危ない、茜の前で『尊すぎて語彙力消失した』とか言いそうになっちゃった…)
その時、駅の階段の方から、こちらを射抜くような鋭い視線を感じた。
(美嘉、何睨んでるのよ…わたしが起きる前に先に出て行ったけど…)
そこには、わたしたちとは別の方向にある中学へ通う妹の美嘉と、その親友の晶が立っていた。 美嘉はいつも以上に不機嫌そうで、手にしたスマホを親の仇のように睨みつけている。
「おはよ、美嘉今日は早かったんだね」
「……ちっ。お姉、また鏡子さんにべったりして。朝から暑苦しいんだけど!」
「なによ、朝からそんなにトゲトゲして。…美嘉、あんた目の下すごいクマだよ? ちゃんと寝たの?」
わたしが心配して顔を覗き込むと、美嘉は顔を真っ赤にしてフイッと背を向けた。
「うるさい! 昨日の夜、ネットで頭の硬いコアラ野郎に絡まれたせいよ! お姉には関係ないでしょ!」
「コアラ野郎……?」
わたしが首を傾げると、隣にいた晶が肩をすくめた。
「アイツ、朝からずっとそれだよ。スマホ叩きすぎて指がおかしくなりそうだって。ま、いつものことだから気にしなくていいよ、サキ姉ちゃん」
「晶!言わなくていいの!ふん!」
晶はそう言い残して、荒れ狂う美嘉を連れて中学の方へと歩いていった。
(美嘉も寝不足……? もしかして、うちの家系ってみんな夜に弱いのかな?)
そんな呑気なことを考えながら学校へ着き、昇降口を通ろうとした時だった。
「美山さん。止まりなさい」
低く、けれど通る声。そこにいたのは風紀委員の腕章を巻いた優花里先輩だった。 朝日を浴びて輝く黒髪、スッと通った鼻筋。校内一の美人という噂に違わぬその姿は、まるで近寄りがたい氷の彫刻のようだ。
でも、今日の優花里先輩は、心なしかいつもより眉間の皺が深い。
(こ、怖い)
「は、はいっ! 優花里先輩、おはようございます! あ、あの、忘れ物もしてないし、スカートの丈もバッチリです!」
「……そうではありません。あなた、昨夜は何時に寝たのですか?目の下に微かにクマがあります。学生の本分は健康管理です。不摂生は、いつか取り返しのつかない『解釈違い』を……失礼、過ちを生みますよ」
(解釈違い……? 先輩、今なんて?)
困惑するわたしをよそに、優花里先輩はふいっと顔を背けた。その耳が、ほんのりと赤くなっていることには気づかなかった。
(あれ?優花里先輩も目の下にクマなかった?気のせいか)
優花里先輩(コアラっ子)は内心、昨夜の『蜜柑ちゃん』との激論で一睡もできていなかった。愛する『みっきん様』の目の下のクマを見つけ、心配のあまりついSNSでの口癖が漏れそうになり、必死に動悸を抑えていたのだ。
「もう。先輩ったら、相変わらず厳しいんだから。あー怖い。しっかし体調管理も風紀委員の仕事なの〜?やっぱりわたし目つけられてるよ〜先輩のストレス発散要員?みたいな?」
わたしが溜息をつくと、隣の鏡子ちゃんの目が一瞬だけ冷たく細まった。
「……サキちゃん。やっぱり、優花里先輩とはあんまり関わらないほうがいいよ。彼女、少し……執着心が強そうだから」
「執着心?あーそうだよね、いつもウザ絡みしてくるし。うん……わたしは関わりたくないんだけど、なんでか向こうから寄って来ちゃうんだよね…ほんと勘弁して欲しいよ……」
「サキちゃんはわたしが絶対に守り抜くからね!」
と、いつになく真剣な表情の鏡子ちゃん。
「守り抜く……?あ、はい。お願いします……」
と厳しい鏡子ちゃんの表情に思わず敬語になってしまったわたし。
しかしわたしの背後で、優花里先輩と鏡子ちゃんの視線が火花を散らしている事に、わたしは全く気づいていなかった。
あれ?美嘉も参戦?さて、どうなることやら……




