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私立雲乃伊戸(くものいと)女子高校 アニオタ美山サキ、ヤンデレ先輩と幼馴染の愛が重過ぎるんだけど〜!?  作者: あさなゆうなぎ


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見えない絆と、SNSの熱い火花

鏡子ちゃんと優花里さんの感情が重くなりだしてきました。

まだまだほんの序の口です。

 その日の夜。


「あ〜!もう、今週の『魔法乙女リリー』第7話、神回過ぎだよ〜!もう尊過ぎて涙が出ちゃったよ!これは一刻も早くすぐに感想あげないと〜!フォロワーさんの反応も知りたいよ〜!」


 自分の部屋でベッドにダイブしながら、わたしはスマホの画面を必死に叩いていた。

 わたしの裏の顔……それはエンスタ(インスタみたいなもの)でのアニメ感想アカウント「みっきん@アニメ垢」の管理人。わたしの知り合いでは鏡子しか知らない大切な居場所だ。


 早速、今日の感想をエンスタに投稿する。すると、数秒もしないうちに通知が止まらなくなった。


「わわ、今日もリプ欄がすごい勢い……!さすが神回だよ〜!」


 まず目に入ったのは、常連の蜜柑ちゃんさん。


『みっきんさん、あのシーンの作画、過去最高でしたよね!特に瞳のハイライトの入り方が…あそこで主人公の決意が全部分かりました!!』


「あ、やっぱりそこ気づいてくれたんだ! 蜜柑ちゃん、相変わらず鋭いなぁ、リプしとこ」


 そこに食いついたのは、もう一人の熱烈なファン、コアラっ子さん。


『みっきん様、本日も素晴らしい考察をありがとうございます。ただ蜜柑様、あのハイライトは決意というより、絶望の中の純粋な愛の象徴ではないでしょうか? わたしは涙が止まりませんでした…』


『コアラっ子さん、それ解釈違いじゃないですか? 絶望に酔ってる暇なんてないんですよ、あの状況の彼女は決意をしたからこそ、あの先に繋がっていくんだと思いますよ』


『……何をおっしゃるのですか?蜜柑様。純粋な愛こそが彼女の真髄です。愛を知らないリリーなんてあなたの解釈違いだと思いますが?この作品のテーマは愛なんですよ(激怒)』


 リプライ欄では二人の熱いレスバが始まり、他のフォロワーたちも「私はこう思う!」「みっきんさんの意見も聞きたい!」と次々に書き込み、お祭り騒ぎになっている。


 隣の部屋では、美嘉が「…ふん、お姉の感想に便乗して変な解釈してる奴がいるんだけど〜何こいつ!いつも絡んできやがって〜うざ!」と、顔を真っ赤にして必死に文字を打ち込んでいるなんて、夢にも思わなかった。


 何に怒ってるのか分からないけど、隣から何か壁を叩いてるからうるさい美嘉!と怒鳴ってやった。もう、せっかく神回の余韻に浸ってるのに〜バカ美嘉〜!


「でもみんな、わたしの投稿をきっかけにこんなに盛り上がってくれて嬉しいな。本当にガチのファンに恵まれて幸せ〜!フォロワーもまだまだ増えてきてるし楽しいな〜!」


 わたしは呑気にそう呟いて、明日もまた「怖い優花里先輩」に廊下で会うんだろうな…まあ、3人で一緒にいれば大丈夫だよね!と少し憂鬱になりながらも前向きに考える様にして、神回の余韻に浸った幸せな気持ちで眠りについた。



 次の日の放課後の生徒会室。


 西日が差し込む静かな部屋の中で、カタカタと激しいフリック入力の音だけが響いていた。


「……伊藤さん。そろそろその、取り憑かれたようにスマホを睨むのをやめたらどうかしら」


 生徒会長の鈴木美雪が、呆れたように、けれどどこか心配そうに声をかけた。

 視線の先にいるのは、校内一の美人として名高い風紀委員長、優花里だ。

 しかし、今の彼女にいつもの気高さはない。美しい顔には、はっきりと分かるほど色濃い隈が刻まれていた。


「…まだです。まだ、終わってないのよ」


 優花里は顔を上げることなく、震える指先で画面を叩き続けている。

 その表情には鬼気迫るものがある。


 彼女は本来、学年一の成績を誇る超優等生だ。

 そのため、授業中こそ「蜜柑ちゃん」への武士の情けのようにスマホを封印していたが、その反動は凄まじかった。休み時間、そしてこの放課後。彼女のすべては「蜜柑ちゃん」への反論に注ぎ込まれていた。


(みっきん様の解釈を……あのような短絡的な理屈で汚されるわけにはいかないのよ…!)


 負けず嫌いの性格が完全に裏目に出てしまっていた優花里。本当は休み時間ごとに1年生のフロアまで降りて、愛しのサキ(みっきん様)の生存確認をするのが彼女の日課だった。

(サキは目の敵にされていると思って、迷惑に思っているが)しかし、今日はその余裕すらない。


「そんなに必死になって、一体何を…?あなた、中学の頃からストイックだったけれど、ここまで何かに熱中している姿は初めて見るわ」


 美雪は少しだけ胸をざわつかせながら、優花里の隣に腰を下ろした。


 美雪は中学時代から優花里のストイックさと美貌に惹かれていた。

 自分と同じく、孤高の美人として並び立つ彼女のことが好きだった。

 だからこそ、今の優花里の様子が、何かに「恋をしている」かのように見えて気が気ではないのだ。


「……相手は、誰なの?」


「……『蜜柑』。恐ろしく話の通じない、低俗な相手なのよ……ッ!」


「蜜柑? ……果物? それとも、誰かのあだ名?」


 もちろん、それが誰だか分からず、美雪は困惑する。

 優花里の熱を帯びた瞳。必死な形相。


 美雪は、優花里がこれほどまでに感情を剥き出しにする相手がいるという事実に、微かな、けれど確かな嫉妬の火が灯るのを感じていた。


「(伊藤さんをここまで変えてしまうなんて……。その『ミカン』という人物、ただ者ではなさそう……)」


 美雪の冷ややかな視線が、優花里のスマホ越しに見えない敵へと向けられた。

 一方その頃、サキは。

「ふぇっくしゅ!…なんか誰かに噂されてる?」


 鏡子にぴったりと抱きつかれたまま、校門を出たところで大きなくしゃみをしていた。

 しかも同時刻に美嘉が部活中にもっと大きなくしゃみをしていようとは夢にも思ってはいなかった。


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