百合の波動を感じるよ!
「ふえぇ…また怒られちゃった…なんだよ〜あれ!」
放課後の廊下。わたしはがっくりと肩を落として、親友の鏡子ちゃんと茜に泣きついていた。 さっき、校章の向きが少し曲がっていたのを、パトロール中の伊藤先輩に呼び止められて直されたのだ。
「サキちゃん、大丈夫だよ。伊藤先輩は風紀委員長だからお仕事で注意しただけだと思うし」
鏡子ちゃんがいつものように優しくわたしの顔を覗き込んで背中をさすってくれる。
「でもなんで校章くらいであんなにチェックして注意してくるかな〜、こんなんだったら全校生徒にも注意するはずなのにさ〜、そうじゃないみたいだから、わたしって絶対目つけられてるよ〜、わたしが何したって言うのよ〜」
「そうだよ、サキ。あの先輩、真面目すぎて近寄りがたいけど、別にサキを嫌ってるわけじゃないって。……たぶん」
「たぶんって〜?おい!茜、その一言で慰めが台無しだよ〜!も〜あの人やだよ〜むかつく〜!」
茜はそう言いながら、時計を見て
「あ! やべっ、部活遅れる!」と声を上げた。
「あ、茜! 待って、わたしも鏡子ちゃんと一緒に体育館までついていくよ。今日は鏡子ちゃんがバスケ部のマネージャーの助っ人頼まれてるんでしょ?」
「サンキュ〜! よろしく!」
(校内で一人でいるところに伊藤先輩に会いたくないからね…)
体育館に到着すると、キュッキュッというバッシュの音と、熱気が押し寄せてきた。
「茜、またギリギリ〜?」
そこにいたのは、2年生の吉田絵麻先輩だった。少し着崩したユニフォームに、耳にはピアス。ちょっとギャルっぽくて、部内でも一際目立つ存在だ。
「すみません、絵麻先輩! すぐ着替えてきます!」
茜が慌てて更衣室へ走っていく。それを見送りながら、絵麻先輩の視線が、わたしの隣にいた鏡子ちゃんに止まった。
「へぇ。あなたが今日手伝ってくれる後藤さん? 茜から聞いてたけど、癒やし系っていうか、いい空気持ってるね〜」
「あ、初めまして。後藤鏡子です。よろしくお願いします」
鏡子ちゃんが丁寧にお辞儀をすると、絵麻先輩はニヤリと笑って彼女の顔を覗き込んだ。
「よろしくね、鏡子ちゃん。私のこと、しっかりサポートしてよね〜」
その距離の近さに、鏡子ちゃんは少し困ったように微笑んでいる。わたしはそれを見て、
(わぁー絵麻先輩、相変わらず迫力あるなぁ〜でも何だか百合の波動を感じるぞ〜!危うし鏡子ちゃん!)な〜んて百合アニメを思い浮かべながら私は呑気に考えるわたし。
部活が終わり、茜を置いて、わたしと鏡子ちゃんは一緒に帰路につく。 夕焼けが街をオレンジ色に染めていて綺麗だな。明日も晴れかな?
「ねぇ鏡子ちゃん、さっきの絵麻先輩って、あなたのこと気に入ってるみたいだったね」
「そうかな? 少し個性が強い人だなって思ったけど」
「なんかね、百合の波動っていうか?そういうものをわたしは感じちゃったんだよね」
「百合…?波動…?」
あ、マズイ!鏡子ちゃんの頭の上に?がいくつも浮いてる!彼女はわたしがアニオタなのを知っているけど、そこまで詳しくアニメのことは知らないんだよな〜。
「あぁ〜、まあいろいろとね…せ、世界は広いよね〜……」
「???もうサキちゃんって、時々変なこと言って面白いよねー!そういうところわたし好きだよ!」
「ははは〜わたしも鏡子ちゃんの事好きだよ!小学校の時からずっとだもんね!」
鏡子ちゃんは、少し頬を赤らめ、俯きながら、
「うん、サキちゃんってね〜、見てるとなんか気になってお世話したくなるんだよ〜」
「ははは〜わたしっておっちょこちょいだから……はい、いつもお世話になってばかりでごめんね……」
「ううん、ううん、全然!わたしも好きでお世話してるんだから」
「お世話ですか……笑」
(あー幼馴染とはいえこんなお胸の大きい美少女にこんな笑顔見せられたから、もうわたし即死魔法かけられちゃったも同然だよ。鏡子ちゃんてば尊いな〜)
鏡子ちゃんはいつもわたしの歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる。 それも彼女の優しさだ。
わたしたちは、いつの間にか手を繋いで歩いていた。
「それより、サキちゃん。伊藤先輩のこと、そんなに苦手なの?」
「うーん…だって、会うたびにビシッて背筋が伸びちゃうんだもん。で、いつも文句言ってくるし…わたしみたいなタイプは、絶対ああいう完璧な人から見たら『ダメな生徒』って思われてる気がして…絶対目の敵にされてるし」
わたしが溜息をつくと、鏡子ちゃんが立ち止まった。 その表情が、一瞬だけ、夕闇に溶けて読み取れなくなる。
「ん?鏡子ちゃん、どうかした?」
彼女は小さな声で、
「サキちゃんは、今のままがいいよ。……もっと可愛くなって誰かに目をつけられちゃうくらいなら、今のうちにわたしだけのサキちゃんにしちゃいたいくらいだよ……」
「え? 鏡子ちゃん、今なんて言った?」
「ううん、なんでもないよ。……あ、美嘉ちゃんが駅の向こうから歩いてくるよ」
「げっ!あいつなんでいるの?」
鏡子ちゃんの視線の先には、不機嫌そうな顔をして中学校の制服を着た美嘉が立っていた。
「どうしたの、美嘉?何かあった?」
「あーお姉、また鏡子さんにべったり。キモいんだけど〜」
「美嘉! なによその言い方。お姉ちゃんは心配して声かけたのに!」
美嘉はわたしをビシッと指差し、
「生存確認、完了。じゃあね」
「は?何言って…」
美嘉はぷいっと顔を背けて、わたしたちを追い越して歩いていく。あれ?Uターンしていった?わざわざ?なんで?なんだあいつ?
「もう、あいつ本当にかわいくないんだから!」
「サキお姉ちゃん、好かれてるね〜」
「は〜!どこが〜?」
プリプリ怒るわたしを見て、鏡子ちゃんはまたいつもの癒やし系の笑顔に戻った。
でも、わたしはその繋いでいた鏡子ちゃんの手の力が、ほんの少しだけ強くなったのを感じていた。
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