4.しゅわしゅわ、弾ける ①
ギラギラとした日差しが照り付ける夏があっという間にやってきた。
この頃になると雨が降る日は格段に減り、僕たちが一緒の傘で下校する機会も格段に減った。
僕はそれがちょっと寂しく思えたけれど、周がどう思っているのかは分からなかった。
学校はのらりくらりと日程だけ長い定期テストを終えて、あと数日で夏休みに突入してしまう。
嬉しくない訳ではないけれど、今年の夏は周も僕もそれぞれの予定でいっぱいいっぱいになりそうだった。
特に周は部活、部活、また部活、と朝から晩まで部活三昧の夏を迎えそうだった。
バド部もそこそこ活動日はあったけれど強豪バレー部とは雲泥の差。時折の休養日を挟んであった。
「周はいつ休みがあるの?」
手元に配られた日程表を見ながら聞くと、周はスマホに送られてきた夏休みのスケジュールを見せてくれた。
わぉ、見事に休みがない。
連日、練習、練習の文字。夏は合宿もあるらしく8月頭には1週間ほどの遠征が組まれていた。
平日でも練習試合があるのは相手校もまた休みに入り対戦相手を求めているからだ。
「……ごめんな。」
周が小さな声で謝る。夏休みに入ったらあそこに行こう。プールや海にも行きたいな、なんて話していたからだろう。
折角の夏休み。きっと周だって楽しみにしていたのだ。
それが2人の休みが重なる事は全然なくて、全滅状態。
気持ちが凹んでもしょうがない。
「しょ、しょうがないよ。部活だもんね。バレー部はそれでなくても練習多いって話だったし、周が入部したことで先輩たちのやる気に火が付いたのかもよ。」
そう言って慰める。
今までの僕たちは、特に予定がなくてもお互いの家に遊びに行っては顔を合わせていたし、去年はそれに塾も重なってほとんど一緒にいる状態だった。
特別何かするわけでもなく、うだるような暑さの中、涼しい室内でダラダラと漫画を読んだり、話題になった映画をサブスクで見たり、塾からの課題をやっつけたりしていた。
それが今年は顔を合わせる時間も殆ど取れなそうだ。目の前で眉を下げて肩を落とす周の姿にそれ以上僕が何を言えるだろうか。
「あ、周と大礼、今日暇?テスト終わりだしみんなでカラオケにでも行こうと思ってるんだけど。」
駒瀬くんがそう言って僕たちを誘った。確かにテストが終わった解放感からクラスの雰囲気はどこか浮足だっていて、いつも以上のざわめきが広がっていた。
「なぁ行こうぜ。周も大礼もあんまりこういう誘いに乗らないだろう?」
「そうそう。周が行くなら女子も行くってやつ多そうだし。」
後ろから他のクラスメートが顔を出す。確かに僕はそう言った集まりが苦手だし、周は部活で忙しくて今まで参加できる時間がなかった。それが今日はお互い部活もないし、学校は早々に下校時間だ。
たまたま休みでたまたま予定もないなんて中々あるものではない。
そんなちょっとした奇跡の時間を僕は楽しみにしていて、本当はいつものように2人で過したいと思っていた。
それでも期待を込めた数人の視線を無碍には出来なくて内心の落ち込みを隠して頷こうとした時、
「悪いけど、俺たちパスな。今日は大礼の家に行くことになってんだ。」
被せ気味に周が言った。
勝手に予定が入っていたらしい。内心の驚きを隠しつつぎこちなく頷く。
「う、うん。ごめん。今日はウチで親と妹が待ってるんだ。」
「あ~、2人って幼馴染みだっけ。親同士も仲良いの?」
「まぁまぁかな。昔はどっちが自分の家か分からないぐらい入り浸ってたけど。」
咄嗟に周の話に合わせた。僕の話にみんなは何故か羨ましそうな眼をした。きっと脳内では可愛らしい女の子が幼馴染みの妄想でも繰り広げられてるんだろう。
「ちぇっ、折角女子もいっぱい来るかと思ったのに。」
「お前ね、他力本願すぎ。」
「それはしゃーなし。周さまさまだって。」
わははは、と楽しそうに笑うみんなに気を悪くした様子はない。
「仕方ない、今度絶対参加しろよ。」
「そうそう、俺たちに幸せのおこぼれくれよ。」
じゃあな、と残念そうではあっても強引にはされない。駒瀬くんが、早く行けという仕草で手を振っていた。何かあっても彼ならフォローしてくれるだろう。
「うん、ごめん。また誘って。」
僕に向けられた期待値ではなかったけれど、他の誰かに捕まらない内に、と僕たちはそそくさと学校を出た。




