梅雨の季節 2
「奥ゆかしいなぁ大礼は。もっと自信もっていいのに。」
隣で結局二つ目のオニギリを食べてしまった周も同じようにうんうんと頷いていた。
「そうだよ、大礼は運動神経だって悪くないし、優しいし可愛いし、練習だって嫌がらないし絶対上手くなるって。」
幼馴染み目線は優しい。途中全く関係のない賛辞も入ってたけど。駒瀬くんはそれをスルーして今度は周に話しかけた。
「周はどうだ、最近。調子いい?」
「あ~どうかな。中学とは桁違いに体力オバケばっかりだなっては思うけど。」
僕は脳裏にガタイの良いバレー部の面々を思い浮かべて納得する。確かに背丈もさることながら、高校生は厚みが違うと感じる。それに比べたら僕は薄っぺらいお煎餅みたいだ。
「ふぅん。充分君もその体力オバケだと思うけどね、俺は。」
駒瀬くんはそう言うと、「何か面白そうな事あったら教えて」なんてちゃっかり頼んで他のグループに話し掛けに行った。
「何だ、ありゃ。」
「何なんだろうねぇ。」
調子良く、要領良く。それが駒瀬くんのモットーらしいけれど、それもまた人徳あっての事だと思う。
そう言う意味では駒瀬くんは正しく信頼できる我がクラスの委員長で友達だと思う。
「でもさ、大礼は本当もっと自信もっていいと思うぞ。」
「ん~?」
「大礼、本当は負けず嫌いじゃん。初心者だって舐められるのもきっと心の中で怒ってるんだろうな、と思ってたんだよね。だから泣き言言わず努力する大礼はカッコいいよ。」
「ハズいよ。そんな事言われたら。」
「ははっ。」
赤面するような台詞を周は顔色一つ変えないで言う。
こっちの方が恥ずかしくなって思わず俯いた。
「俺はさ、大礼の気が強い面だって知ってるし、身長伸びないのが悩みなのも知ってる。」
「それは隠してないでしょ。」
「はは、そっか。でも周りを見てサポートに回ったりもしてるじゃん。中々出来る事じゃないよ。」
どうして周はそんな事を言うんだろう。
どうして僕のそんな姿を知っているんだろう。実は僕の部活の様子を見ていたのだろうか。
僕が周を気にしてバレー部の練習風景を度々盗み見していたように。
「そんな大礼はバド部にとって大事な部員になってると思う。」
だから自信をもて、なんて周はニコリと微笑んで僕の頭を撫でた。
さっき駒瀬くんが撫でてくれた仕草と同じはずなのに、周からされたそれはどこか違う。
同じようにぐしゃぐしゃと僕の柔らかな髪の毛を乱して、そして猫の背を撫でるように宥める。
優しくて暖かくて、僕の傍に昔からあるものだ。
周は自分の発言にどれだけ僕が照れくささを感じているか分かったのか、視線を外していた僕の視界に手の平を差し出して今度は何か含みがある笑みを浮かべる。それこそ悪魔みたいに微笑んだ。
「………何だよ、その手。」
「ん、ご褒美。俺が大礼の事ちゃんと分かってるって事の。」
満面の笑みでさも当然のように僕から貰えるナニかを待っている。
悪びれないその顔にも僕は結局やっぱり弱くて、鞄の中からシリアルバーを1本取り出した。
「ほら、これ上げる。その代わり、今日は帰り何もないからね。」
ご褒美をもらった周はもし尻尾があったらブンブンと振っていたかのように嬉しそうに頷いた。
「やった。大礼ありがと。」
小腹を満たした周は満足気に僕に微笑みかける。
その瞳が僕から逸れない事が何となく嬉しくて。
実はもう1本残っているシリアルバーをやっぱり帰り道の傘の下で渡してしまうんじゃないか、と今からそう予想した。




