梅雨の季節 ①
季節は梅雨に入って、僕と周の下校は回数を増やした。
朝から雨が降っている時は傘を持っているだろうに、何故か下校時には「傘がないから入れてくれ」と言われた。
「何で?今日は朝から雨だったじゃないか。傘、持ってるだろう?」
そう言うと、周は
「あったけど部活の奴らに貸した。」
と事もなげに言った。一体彼らの中の常識はどうなっているのか。
朝から雨だったのにどうやって学校まで来たのだろうか。
疑問には思ったけれど体力の有り余っているバレー部男子にはスパイクを打つのと同じように傘を振り回すクセでもあるのか。
言い訳は色々あり、
「今日持ってきたのは学校から借りた傘だったから返した」
だとか、
「女子に奪われた」
だとか、
「持ってきたのが途中で壊れて使えない」
だとか。
何となくありそうで、何となく嘘くさい話ばかりだった。
最終的に、
「大礼と一緒の傘に入りたいから持ってこない」
とまで断言され、僕は雨の日は仕方なしに一つ傘の下、一緒に下校することになっていた。
変わった事と言えば。
僕は常にカバンにちょっとしたオヤツを忍ばせて行くようになった。
高校は中学と違って色々な事が緩く、腹を空かせた学生が休み時間になるとどこからか大量のオヤツを取り出してワイワイ言いながら食べる姿がそこかしこにあった。
スポーツ系の部活に所属している男子はそれこそ『休み時間に食べる弁当』とやらを持ってきて意気揚々とかぶりついている事も珍しくなかった。
周も直ぐにお腹が空くようで、大きなオニギリを休み時間によく食べていた。
ワイルドに握られた少々歪なそのオニギリはいつも三口ぐらいで食べ終わる。
「一つじゃ足りねぇな。」
物足りなそうな顔で丸めたラップを見て残念がる周の姿にちょっと呆れる。
僕ならあの半分で充分お腹は膨れるのに。体型云々というよりも既に別次元の生き物だ。
「何個なら満足するんだよ。」
駒瀬くんが僕と同じ呆れたようにそう聞くと、
「あと3つ。」
と周は律儀に答えていた。
「でかくなる訳だよな。大礼もそう思うだろ。」
僕もその意見には同意なので、ただ頷くだけにとどめた。
「大礼は小さいけどバネはあるよな。バドミントン頑張ってるじゃん。」
駒瀬くんはそう言うと僕の頭をヨシヨシと撫でる。同じ歳なのに子ども扱いみたいだ。
そんな要素はないはずなのに、僕を子ども扱いする駒瀬くんは精神的に年上染みているのだ。
「そう?何でよ?」
どうして僕が部活を頑張ってるなんて知ってるのか疑問に思ってそう聞くと、
「ああ、俺、放送部だから。言わなかったっけ?色々な部活見て回ってるの。」
と種明かしをされた。
ああ、そう言えば聞いたかもしれない。
文化部の中で放送部だけは全国大会にも出た事があるらしく。文化部の花形部だ。
「他にも色々ネタは探してるんだけど。やっぱりバレー部とサッカー部の品田先輩は注目度高いし、取材する価値あるでしょ。」
サッカー部の先輩が何者なのかは知らないけれど、駒瀬くんがそう言うならきっと人気のある選手なんだろう。
バレー部は言わずもがな隣でもう一つおにぎりを食べてしまおうか迷っている周なんだろうけれど。
「バド部は同じ第二体育館じゃん。だから必然的に大礼の姿も見たって訳。お前あんなサーブ打つのな。ロブだって上手いし中々やるじゃんって思って。」
自分の知らない所でそんな姿を見られていると分かったら何だかとても恥ずかしい。
「いや、きっと駒瀬くんが見たのはたまたま上手く打てた時だったんじゃないかな。僕、部活でそんな上手に出来た事ないよ。初心者だし、誰かと見間違えたんじゃない?」
どうも自分の事とは思えなくてそう言うと、駒瀬くんは笑った。




