2.アメ ②
「こんなんじゃ何の意味もなさそうだけど。無いよりいいでしょ?」
「…‥‥大礼、これどうしたんだ?スース―するからシュガーレス苦手だろう?自分で買ったんじゃないよな。」
うっ…流石幼馴染み。僕の好みも苦手な物も把握済みだ。
「う、うん。駒瀬くんに貰ったんだ。朝、ちょっと喉が痛くてさ。咳してたの聞いてたみたい。喉に良いからって。」
そう答えると、周は眉を顰めた。
「そうなのか?初めて聞いたぞ。他に頭痛とかないのか?」
ほら、やっぱり。周は昔から僕に対してちょっと過保護気味な所があるから。絶対心配かけると思ったんだ。
僕は周の視線が少し濡れた肩口へ向かうのを見て慌てた。
「だ、大丈夫だよ。すぐ咳だって治まったし、もう喉も痛くないよ。」
ほんの少し痛みの残る喉の調子を気付かれないように唾を飲み込んで隠した。周はまるで自分も喉が痛かったんだ、とでも言うように「ん、んっ」と喉を鳴らした。
「無理するなよ。大礼は昔から体調崩しやすいんだから。」
「一体いつの話だよ。さすがに成長したよ。昔よりは丈夫になってるって。」
ははっ、と笑って誤魔化したのに、周は騙されてくれないような、それでいて僕のウソに乗ってくれたような、どっちつかずの表情で僕を見た。
「それ寄こせ。しょうがないから食べてやる。」
周はそう言って僕の手の平に乗ったままだったノドアメを2つとも掴んで袋を破ると一度に2つとも口に入れた。
「わっ。一回に食べちゃうの?」
2つあるから一個ずつ食べよう、というイメージでいた僕はその周の行動にビックリした。
そんなに急いで口に入れるほどお腹が空いていたのかと思って、アメしか持ってなかった自分が申し訳ないような、情けないような、そんな気分にまた陥った。
隣を歩く周の頬が2つのノドアメでぼこぼこと形を変えていた。僕からは片方のほっぺたしか見えなかったけれど、口の中で転がしている様子が見えて何だか面白かった。
「んん?」
視線を感じたのか、周が促す。さすがに口の中は一杯なのか言葉を発することはなかったけれども。
「いや、やっぱり2つ一遍は多かったんじゃないって。ゴロゴロするでしょ。周の顔も変わってる。」
ふふっと笑うと、周はわざとらしく顔付きを変えて僕をさらに笑わす。
「んー?んんー?んー?」
「ははっ。何その顔。おっかしいから、やめてよっ。」
いつもは精悍な顔つきで表情も崩さないような周がヘンテコな顔で僕に迫ってくる。
僕はもうそれだけで可笑しくてしょうがない。
狭い傘の下で周の変顔から必死に顔を背け、身体を捩って逃げ続ける。
「もうっ、やめっ。ははっ、本当に可笑しいっ。」
楽しくて、女子みたいにキャーキャ言って逃げていたら、不意にガシッと肩を掴まれた。
「…‥大礼、そっち行くな。」
変顔だった周はいつの間にかいつもの顔に戻っていた。口の中のノドアメはどうしたんだろうと思って、そう言えば昔からアメを最後まで舐め続けられない奴だった、と思い出した。
いつも途中からガリガリ噛んで食べてしまうから僕より先に食べ終わるんだ。
「ほら、濡れる。」
掴まれた肩口は雨でしっとりと濡れていた。僕寄りに差してくれていた傘も今の動きで左右にブレて僕の顔にも雨粒が落ちていた。
周の手は暖かくて、触れている腕もまた人肌の温もりを感じた。
「イイコにしてろよ。これ以上濡れたら風邪引くだろう。」
周は、ほんの少し屈みこむように僕の顔を覗き込んでくると、僕の視界は濡れた雨粒と周だけになる。
目元に伸ばされた指先に自然と瞼が閉じて、周の指が届く前に滴が頬を伝った。
周の指先はそのまま頬に触れた後、僕の唇に軽く触れたように思えた。
それはほんの数秒の出来事だったのに僕にとって強烈な印象を残した。
周の気配が離れて行って、僕が目を開けると周はもう前を向いていて僕にその表情は見えなかった。
「ほら、早く行こうぜ。本当、腹減ったよなぁ。」
ただ、そう言った周の耳が、いつもよりほんの少し赤らんでいたように思えたのは僕の願望だったのかも知れない。




