1.「約束」のはじまり ③
僕がバド部へ入部したのは、もちろんバドミントンが楽しそうだったという理由もあったけれど、バレー部が同じ体育館で練習することが多かったからだった。
体育館は曜日や時間によって練習が割り当てられていたが、バレー部は第二体育館の3分の2スペースを毎日使って練習していた。
バド部は第二体育館を利用していて、僕にとっては同じ時間の同じ空間に周がいるという事に意味があった。
バレー部はほとんど毎日練習があって、休養日は数える程しかない。それでも雨の日みたいな天候が悪い日は監督の意識も家路へ向かうのか、普段よりも少しだけ練習時間が早く終わるのだ。
たまたま部活終わりが同じ時間になった日。その日は朝から天気は晴れで、帰り際ザーッと降ってきた雨はみんなにとって予期せぬものだったろう。僕は歳の離れた妹を心配する母のお天気チェックからのアドバイスで、折り畳み傘を持って登校していた。
「あ、大礼。傘、傘持ってるよな?」
「う、うん。」
「やった。な、一緒に帰ろうぜ。」
体育館入口で声を掛けてきたのは、額に汗を浮かべた周だった。タオルを見つけるのも億劫なのか、着ているTシャツで汗を拭って、割れた腹筋が惜しげもなく見えていた。
その男らしい筋肉にドキリと胸が高鳴った。ドキドキした自分を悟られないようにただ静かに頷いて、その日初めて部室棟の入り口で待ち合わせをした。
他愛もない話をして、同じ傘に2人で入った。
僕よりも身長の高い周は僕の傘を持ってくれたけれど、男子高校生2人に折り畳み傘一本はやっぱり狭くて。結局2人とも左右の肩をそれぞれ濡らして帰ることになった。
「なんかごめん。結局傘の意味なかったね。」
そう言って謝った僕に、
「でもずぶぬれより全然いいよ。それに、大礼と一緒にいたかったし。」
なんて甘い声で言うから僕はそれ以上周の顔を見る事が出来なかった。
「じゃ、また雨の時、周が傘を持ってなかったら僕の傘に入れてあげるよ。僕、高確率で傘持ってると思うし。」
何故か気恥ずかしくて俯いたままそう声を掛けたら嬉しそうな声が返ってきた。
「やっった。大礼、約束だからな。」
嬉しそうな声に思わず周の顔を見ると、眦を下げてにこりと笑う周と目が合った。
胸がきゅうっと締め付けられて、僕は慌てて視線を外した。
「約束、忘れんなよ。」
優しい声がまたしても僕の頭上から聞こえて、僕も同じように「うん」と小さな声で答えた。
どうか優しく聞こえますように、と願いを込めながら。
それが、僕と周の約束の始まり。




