9.傘に隠れて小さな事を ②
ちゃんと伝えなきゃ、と思ったのは要さんとの会話を思い出したから。僕たちがギクシャクしていると親に聞いて電話をかけてきてくれたんだ。
要さんにとって僕と周は二人で一つって認識だったんだって。傍にいるのが当然みたいな。兄弟の自分よりも結びつきが強くてちょっと嫉妬もしたけど、俺とは違う愛情で結びついているって気づいてからはスンナリその関係性を認められたって言ってた。
それにね、取って置きを教えてくれたから、僕も勇気を出そうって思ったんだ。
『周、俺に言ったんだ。俺が家を出て行くときに。これで大礼は俺一人のものだって。俺、大礼にちょっかい出したことないのにな。』
困った弟だよ、なんて笑って言う要の言葉に、周はずっと僕を思っていてくれたんだって気付いた。
僕も、僕もだよ。
自分じゃ分かって無かったけど、周がずっと好きだったんだって、今なら分かるよ。
隣にいるのが当たり前で、気付くのが遅くなっただけなんだ。
シトシト降る雨の中僕たちは2人並んで歩いた。
傘の下はまるで密室みたいに僕たち2人だけの空間を作った。
「ね、周はどうして一緒の傘に入るのは僕とだけって言ってたの?」
「今さら聞くのか、それ。」
「うん、今のこの状況を他の人とは共有して欲しくないって気持ちなら分かる。」
「ほぼ合ってる。」
周はニヤっと笑って上機嫌になった。余裕あるな。
「ほぼ?」
「そう、ほぼ。」
謎かけみたいな会話は何故かひそひそ声になって自然と僕と周の顔が近づく。
綺麗なキラキラとした瞳が僕の目にも映って自然に声が出た。
「周、好きだよ。」
不意打ちみたいにそう伝える。「ほぼ」の残りの答えはきっとこれが正解。
ちょっとだけ驚いて目を大きくした周だったけど、その後蕩けるような眼差しで僕を見た。
何だコレ、恥ずかしい。
「俺も、大礼が好きだ。ずっと、ずっと前からな。」
返してくれる愛情が言葉で繋がったみたいに感じる。自然に傘の柄を持つ周の手に僕の手も重なった。
「俺が一緒にいたいのは昔から大礼だけだ。ずっとずっとそれは変わらない。」
「うん…僕もそうだよ。ずっと周の隣にいて、一緒に歩いていきたいよ。」
照れくさそうにお互いの顔を見合わせたけれど、少しずつ近づいてくる周の顔に僕は静かに瞳を閉じた。
ふにゅ、と触れた唇の感触は一瞬だったけれど確かに僕たちはキスをした。
「ね、傘の下って特別だね。秘密がいっぱい。」
僕の言葉に笑った周は既に身体を起こしていたけれど、その顔は凄く嬉しそうだった。
「いいな、傘の下の秘密って。でも大礼が言ったんだぞ、相合傘は好きな人としかしないんだよ。だって愛愛傘でしょうってさ。」
だから俺は大礼としか傘にははいらなかった。と最後に爆弾みたいに僕の過去の勘違いを暴露した周だったけど、「ほぼ」の残りのピースが完全に埋まって僕はまたしても赤面する。
だって、そんなの周はずっと僕に告白していたようなものじゃないか。
恥ずかしさに居たたまれない気持ちになった。
「ほら、そんな可愛い顔も傘の下なら俺しか見ない。」
そんな風に周が言うから、僕の勘違いもあながち勘違いではなかったんだなと思う。
ずっと静かに降る雨の中、僕たちは寄り添うように同じ傘の下を歩いた―――。
*
雨が好きだ。
大好きな人が傍にいるから。
雨が好きだ。
ひっそりと僕の肩を抱き寄せてくれるから。
雨の中、同じ傘の下を歩くのが好きだ。
そこは僕たちの秘密に溢れているから。
いつも一緒だと、隣を歩く男が伝えてくれるから。
だから、僕は雨が好きだ。
終わり




