1.「約束」のはじまり ②
受験は厳しかった。元々行ければいい、行ける所でいいという考えの自分が途中から偏差値を数個上げなければならないのだ。何処をどうしたら偏差値が上がるのかさえ分からず途方に暮れた。
それでも成績を上げたいと相談した教師はとにかく勉強量を今より5倍、いや、3倍でもいいから増やせと結構無茶なアドバイスを寄こした。
塾にも通っていなかった僕にとって、どうやったらそんなに勉強できるのか。どう勉強していけばいいのかは漠然としていたけれど、不安そうな顔を心配した周に根掘り葉掘り聞き出され、結局周が行ってる進学塾へ入塾した。
周と一緒の進学塾はマイペース寄りの僕にとって付いていくだけで精一杯な場所だった。宿題は多く、進む授業も学校の授業より数倍早かった。3年の夏休み前には中学で習う範囲は全て終了していたぐらいだから実際僕がそのスピードに付いていける訳はなかった。
それでも必死にしがみ付いてがむしゃらに勉強した。人生であんなに英単語を詰め込んだ事なんてなかったんじゃないかと思う。周は普段から僕には優しいけれど、あの時だけは鬼監督さながら僕に付きっ切りで勉強を教えてくれた。
正直塾に行かなくても周がいてくれれば事足りたんじゃないか、なんて思ったけれど周自身の勉強もあったからそこはしょうがなかっただろう。
兎にも角にも、僕のそして周の努力が実って僕たちは同じ高校に進学出来た。
僕はきっとギリギリ合格だったんだろうけれど周はやっぱり周囲に惜しまれながらその高校に進路を決めていたのでもっと偏差値の高い高校にもいけたんじゃないだろうかと今では思う。その当時は気付かなかったけれど。
入学すると周は既に名を知られている新入生で、鳴り物入りみたいにバレー部へ入部した。さり気なく僕も誘われたけれど周の友達だからという気遣いが透けて見えて、流石にそんな理由では入りたいとは思えず辞退した。
運の良い事にクラスは同じだった。大人しいというよりも人見知りっぽい僕にとって周が一緒のクラスになった事は凄く運が良い事だと思ったのだけれど。実際に学校が始まると周の周りにはいつも沢山の人がいて、誰も彼もが周と友達になりたがっていた。
そんな輪の中に飛び込んでいく事なんて出来なくて、僕はどちらかと言えば僕と同じように大人しめに見えるクラスメートと仲良くなった。
彼は駒瀬くん(こませ)と言って話してみると僕よりもおしゃべりで見た目に反してコミュニケーション能力の高い人だった。それは周りに対する気遣いという点でも勝っていて気付くと僕の隣には今まで通り周がいて、駒瀬くんは周といつの間にか仲の良い友達になっていたのだった。
駒瀬くんのお陰で僕はこれまでと変わらぬ交友関係を結べるようになった。駒瀬さまさまである。
そうは言っても、新しい環境は否応なしに新しい関係へと発展するもので。中学までの始終べったりな関係とはさすがに別れを告げた。
周は部活が忙しく、休み時間は話し掛ける人でいっぱいだった。昼は僕と駒瀬くんと一緒に食べる事が多かったけれど、それでも部活のミーティングやら何やらで、その時間も十分に取れているとは言えなかった。
僕は時折寂しがってないかな、と人一倍寂しんぼな周の顔を思い浮かべたけれど、それは裏を返すと自分の方が周を恋しがっていたのだと思う。
そんな中、一つだけ周が譲らなかったことがある。
それは、雨の日の下校は僕と一緒に帰るということだった。
今日はたまたま部活の休養日に当たったからクラス内で声を掛けられたが、普段は周の部活終わりを僕が待つことが多かった。
小柄で平均身長にちょっと届かない凡庸な僕だったけれど、高校の部活はバトミントン部を選んだ。
文化部じゃなかったことに周は最初驚いていたけれど、見た目よりも運動神経は良い方だと知っていたからか「頑張れ」とひと言激励の言葉をくれた。
バド部は部員25名と小人数ではあったけれど大会ではそこそこ良い成績を残せる実力はあるらしく、それなりに学校内では存在感のある部活だった。強豪で知られるバレー部や、強化選手もいるというサッカー部など華やかな部活に隠れた地味な存在ではあったけれども。
同じ一年は僕の他に7人。
中学からの経験者が5人もいるので、高校から正式にバドミントンをやり始めた初心者は僕の他には2人しかいなかった。
仲間がいるのは心強いものである。




