7.言えない ②
「なぁ、このままでいいのか?お前、霞になって消えちゃうぞ。」
「カスミって…。駒瀬くん、意外に詩人ね。」
「だろう?俺、国語が一番成績いいんだよね。」
ドヤ顔でそう言って僕を笑わす。でも駒瀬くんの瞳の奥はやっぱり心配の色が見えて、僕は何て友達がいのある人だろうと思った。
「このままでいい、とは思ってないけど。でもさぁ、よく考えたら高校生にもなってずっと一緒、全部一緒って無理あったんじゃないかと今更ながら思うんだよね。」
「やっと気付いたか。」
「え!駒瀬くん気付いてたなら言ってよ。僕、気付いてなかったよ。」
「いや、気付けよその異常性。でもさ、周と大礼が一緒にいないのもまた異常な気がするんだよな、何でか。」
「え?」
「ひと言で表すなら、空気感?一体感?周と大礼はそんな感じ。」
「ひと言でもないし、丸っとしすぎてる!」
はははは、と笑い合ったのに直ぐに口元は勢いをなくした。
「大礼さ、そんな顔するぐらいならちゃんと話し合ったらいいじゃん。どっちが悪いのか分からないけどさ、ちゃんと話して謝ってさ。そうしたら元通りになれるんじゃない?」
「喧嘩なんてしてないよ。ただちょっと……自立の一環というか…。」
「自立ねぇ。」
「そう、自立。それに周はさ…。周はもう僕と一緒にはいたくないのかも。僕より一緒にいたい人を見つけたのかも知れないよ。」
「ああ、話題の彼女ね。」
駒瀬くんが言うぐらいだ。マネージャーの彼女はもう噂になっているらしい。
もう周の隣には居場所がない。
何だか泣きそうになって机に突っ伏していたら、駒瀬くんがよしよし、と僕の頭を撫でてくれた。
それが凄く優しくて、僕はウトウト眠気に誘われてしまった。
「あれが手放した顔かねぇ…。」
だから、駒瀬くんの呟きを聞き取ることは出来なかった。
***
避けていても狭い校内。それも同じクラスと言ったら偶然鉢合わせになる機会なんて何度もある。
その度に何とか話し掛けようとするのに全然上手くいかない。
僕は臆病だったし、周は僕に無関心だった。
部活の時間はもっと辛くて。
周と噂の彼女のツーショットを否が応でも見る事になった。
「うぅうっ。僕もう部活辞めちゃおうかな」
目の端に映る2人の姿に心が軋むから。僕は何となく痛む胃を抑えてそう呟く。
反応してくれる友達はみんな試合をしていて近くにいない。
どうしてここまで拗れたんだろう。いつもだったらもっとスンナリ話が出来た。
「ごめんね」のひと言だって簡単に言葉に出来た。
なのに、今回は周には何も言えない。
だって、口を開いて何か言ったなら、きっと思ってもみない事も、心の底に隠している思いも。
全部飛び出してしまうと思うから。
どうして僕の話を聞いてくれなかったのか、とか。
どうして彼女と一緒にいるのか、とか。
本当にその子と一緒の傘で帰ったのか、とか。
もう僕は必要ないのか、とか。
全部全部ぶちまけてしまうと思うから。
僕が取ったんじゃないよ、あの金魚。僕がずっと周としか金魚すくいをしない事、知ってるでしょ。
要さんだって周に会いたかったんだよ、きっと。
ずっと周の話をしてたんだから。
ねぇ、僕ずっと周の事考えてたよ。
嬉しい事も楽しい事も。周とすること全部そうだった。
でもね、最近はずっと悲しいんだ。
周の事考えるのはずっと苦しくて、辛いんだ。
僕、周が好きみたい。
ねぇ、言ってしまったらどうなるかな。
周が好きな彼女と気まずくなるかな。
周の傍に僕の居場所、少しは残っているかな。
幼馴染み枠でさ、ちょっとでも。
でもさ、もうその枠だと僕は苦しくて寂しいから。
やっぱり何も言わないで離れる方がいいのかも知れないね。
部活終了の合図がして、空からは大きな音を立てて激しい雨が降り出していた。




