7.言えない ①
二学期の始まりは酷いものだった。
あれから周には会っていない。
どうして会えないのかなんて分からない。
僕自身が会いたくないからなのか、周がわざと時間を合わせていないのか。
最初のころは僕の方が避けていた。
だって、僕は何も悪い事をしていないのにあんな風に怒ったように決めつけた周が悪いと思っていたから。
あの、可愛らしい女の子が周と楽しそうに話しているのを見たくなかったから。
そう、やっぱりあの子はバレー部のマネージャーだった。
残りの夏休み。
僕はバド部の部活を全部サボってしまった。
まぁ、たった数回だったけれど。
心配して連絡をくれた部活仲間は面白おかしく僕に教えてくれた。
『周、バレー部のマネージャーと付き合ってるみたい。知ってた?』
と。
「知らない」と答えると、幼馴染みにも言ってないのか。薄情な奴だな、と言われた。
何でも、部活の最中、周とその女マネ(じょ)は休憩時間になるといつも一緒にいるらしい。
いつもの一方的なつき纏いかと思ってたけれど、どうやら今回は様子が違う。
だって周の愛想が良い。
2人でいると雰囲気が違う。
『決定的なことはさ、俺見ちゃったんだよね。
あの2人が一緒に帰るのに待ち合わせしちゃってる所。
え?それはいつかだって?
ああ、あのゲリラ豪雨あった時。
突然降ってきて、あのどしゃ降りだろ。
傘はもってないし、もうあの雨の中走って帰るしかないか、と昇降口に行ったらさ、その子がいたんだよ。
傘持って。
誰か待ちって感じで。
そんなん誰かなんて分かるじゃん。
案の定、周が来るのが見えたからさ、俺雨の中飛び出していったよ。
だって、嫌じゃん。ラブラブカップルの中に1人でいるの。
馬に蹴られたくないし、振り向かないで一目散に帰ったって。
え?一緒の傘で帰ったのかって?
いやぁ、それは分かんないけど。
あれ?でも周って傘いつも持ってないよな。
じゃ、ラブラブで帰ったんだろうよ。相合傘でさ。
けっ、モテる奴は良いよなぁ。』
目の前が真っ暗になる程の衝撃だった。
2人が付き合っているという事よりも、僕にとって苦しかったのはその子と周が一つの傘で一緒に帰ったかもしれないという事だった。
僕以外の傘には入らないって言ったのに……。
あんな口約束。約束の内にも入らないって頭では分かっているのに、僕は勝手に裏切られた気分になった。
周の隣は僕の場所で、周と一緒に傘に入るのも僕だけだと思っていた。
でも、あんな風に周の前から逃げて、絶対怒ってるよね。
その証拠に周から連絡全然ないじゃん。
今じゃ避けているのは周の方だ。
あんなにずっと一緒にいたのに。
もう僕とは会いたくないし、話したくもないのかな。
気になるなら自分で会いにいけばいいし、周本人に確かめればいい。
それが分かっているのに僕は自分からは行動しない。
結局他人任せでズルい人間なんだって、そんな自分が凄く嫌だ。
ズルズルと自分に言い訳を付けて、夏休みが終わるまで僕は周に会いに行くことはなかった。
学校が始まると、僕には逃げ場なんてなくて、否応なしに日常は過ぎていった。
周と僕は以前のように一緒にいることが減って周りはそんな僕たちを一時揶揄った後、それがさも当然のように受け入れた。
結局、周の隣は僕のモノ、と思っていたのは僕個人の独りよがりでしかなくて。
周囲から見たら、周の隣が誰であろうと関係なかったのだ。
唯一、駒瀬くんだけは「大丈夫か?」とコソっと聞いてきてくれた。僕を心配してくれたのは駒瀬くんだけで、僕の隣には今じゃ駒瀬くんがいる事のが多いくらいだ。
僕が周の傍にいなくなった事で、周の周りにはまたより一層人間が集まってくるようになっていた。
それを疎ましく思っていたことを知っていた僕は、やっぱり僕が隣にいるべきじゃないかと考えて、いいや、僕にそんな権利はなかった、とガックリすることを繰り返していた。
そんな僕の姿を見てないはずはないのに、周が僕に話し掛けてくることはなかった。
ずっと無視みたいに僕と視線を合わせない。
それが凄く悲しくて寂しくて、僕は日に日に萎れた花のようになっていった。




