表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傘に隠れて秘密の話を  作者: 塚銛イオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/20

6.寂しい金魚 ④



これ以上遅くなると寮に入れてもらえなくなるから、と要は僕に謝りながら金魚すくいだけやって帰ると言い出した。

駅まで見送ると言いながら僕も要について駅へ向かった。

あれから1時間ちょっと。もしかしたら周が帰ってくるかも知れないと期待していたのもあった。


駅への道は益々増える人の波に前へ進むのも苦労した。

行きのように穏やかに会話が出来なくて、僕は要を見失わないように気を付けていたけれど、不意に足を取られて転びそうになり、前を歩いていた要にぶつかった。


「うわっ。」

「ご、ごめんっ要さんっ。」

「やっぱり人多いな。」


苦笑いと共に要が僕の手を取って歩き出した。


「転ばないように、な。」


昔から変わらない優しさが伝わる。

僕と周にとって、要はいつも頼れる兄で、憧れの兄だった。


「……あのさ。」

「ん?」

「周…大礼に気を使って一緒にいる訳じゃないと思うよ。あいつ、昔からお前大好きじゃん。」

「…………。」

「忙しいのは確かで、環境が変わって変化した事だって確かにあるけど、根本的な所は変わってないと思うよ。」

「ど、して?」


不安に思っていたことを言い当てられて驚く。

だって何も言ってない。

世間話みたいな僕たちの近況を話しただけなのに。


「何か悩んでいるみたいだったから、大礼。想像でしかないけど周のことかなって。」

「僕、そんなにあからさまだった?」

「いや、昔からお前たちはニコイチだったから。単純にそう思っただけだよ。」


恥ずかしさに顔が赤くなる。


「でもさ、そんな幼いころからずっと一緒にいたいって人間と巡り会うのって凄い確率なんだってお前たちには気付いて欲しかったんだ。今も一緒にいたいって思うことが大事なんだって思って欲しい。」


要の話はちょっとだけ僕の心を浮上させた。僕が周と一緒にいたいって気持ちを無条件で認めてもらったみたいに思えたから。


「じゃ、また来るよ。今度は周と大礼、2人揃ってるときに会いたいしな。」


軽く手を振って改札をくぐる要の姿を見送る。

姿が見えなくなって、僕はふぅと大きく息を吐いた。


「―――大礼?」


強張った声。

肩に置かれた大きな手。

仄かに香る周の匂い。1日の終わりのちょっと汗臭い匂い。


「周…。」


振り返ると鋭い視線が僕を見ていた。

チラっとさっきまで僕が見ていた改札を見据えて、もう一度視線を僕に戻す。


「あれ、要?要と一緒だったの?」

「う、うん。たまたまここで会って…。」


沈黙が重い。視線は僕の持つ金魚を見つめた。


「金魚すくい、やったんだ……。」

「ちがっ。」


身を捩って周と向き合う。ちゃんと説明したい、そう思って反論しようとしたその時。


「周っ。やっと見つけた~。」


僕と周の間に入ってきた女の子の姿。

周の腕に手を掛けて、嬉しそうに話し掛けている。


「急にいなくなっちゃうんだもん。夏祭りやってるからみんなで行こうって言ったじゃん。」


僕、この子知ってる。この間見たマネージャーだ。


「みんなあっちで待ってるよ。ほら、一緒に行こうよ。あれ?知り合い?」


彼女の目が僕を見つけた。不思議そうに僕と周を見る。


どちらの視線も耐え切れなくて、僕は一番卑怯な事をした。

何も言わず逃げたのだ。


「大礼っっ。」


僕の行動は周にとっては予想外の事だったのか、僕はその一瞬で周の前から姿を消した。

人込みの中を縫うようにただ走る。

後ろから周の僕を呼ぶ声が聞こえたけれど、今の僕は酷く醜い顔をしているから。

だから今は追いかけてこないで、と手首に下げた金魚の袋がプラプラと揺れるのにも構わず走り続けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ