6.寂しい金魚 ③
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「久しぶりだなぁ。大礼も高校生か。早いよなぁ。」
「要さん、その言い方オヤジ臭いよ。」
「そんな言い方するなって。でも俺にとってみれば大礼は周と同じ可愛い弟なんだって。久しぶりに会ってその成長ぶりを愛でたって良いだろう。」
それが親戚のおじさんみたいだって思ったけれど言葉を飲み込んだ。
確か要は大学の陸上部に所属していたはずだった。
夏は遠征、遠征の毎日で実家に帰ってくる暇はないらしい、と周から聞いていたので今ここにいる事が不思議だ。
「ちょっと荷物を取りに実家に戻ってきてたんだ。そしたら今日は夏祭りだっていうからさ。寮に帰る前にちょっと寄ってみようかと思ってさ。」
要はそう言って僕に笑った。笑うと周にちょっと似てる。
目元が弓形に柔らかく形を変えて、優しい雰囲気に変わる。
「駅まで来たら何だか知ってるような奴がいるだろう。だから声を掛けてみたって訳。」
要は僕が一人でいると知って少しだけ夏祭りに付き合って、と言った。あまり時間がないから触りだけ見て帰る予定だそうだ。
周がいないならもう帰ってしまおうかと思っていた僕は少し迷ったけれど要の優しい微笑みを見て思わず「うん」と頷いた。
「そっか、周は練習試合か。遠征だと時間も読めなくて困るよなぁ。」
要はそう慣れたように言った。要もまた陸上部で同じような経験があるんだろう。苦笑いと共に伝えられる。
「昔から周と大礼は仲が良かったよな。今もずっと仲良しでいてくれるのは単純に嬉しいよ。」
「僕は暇だし、周といるのは楽しいから…。周は優しいから僕が心配なのかも。」
「まぁ、周は忙しいだろうなぁ。バレー部、そこそこ強い高校なんだろう?」
「うん。この辺じゃ一番じゃないかなぁ。弱肉強食って言ってたし。」
「ははっ、弱肉強食か。それは気が抜けないよなぁ。」
不思議だけれど、お祭りの提灯の灯りが連なる参道の中を要と歩いているとまるで隣を周が歩いているかのように感じる。
声が……似てるんだ。
低くて落ち着いた声は暗がりの中僕の胸をトクトクと高鳴らせた。
人込みにはぐれないように要の姿を追う。それでも普段から人の多い場所は苦手で殆どいかないからどうやって見失わないようにすればいいのか分からない。
「あぁ、大礼は昔から人込み苦手だったな。うーん、じゃ手でも繋ぐか?」
「流石にそれは…。」
「そうか?周とは繋がない?」
聞かれて、そう言えば周とはどうしていたっけ?と考える。
周はいつも僕に何かを捕まらせていたっけ。周の洋服だったり、リュックの紐だったり。手は…繋いでいただろうか。
「大丈夫だよ。ピッタリ張り付いているから。」
「オッケー。まぁはぐれても大丈夫だろうけど。もう高校生だもんな。」
周と違って要は僕を甘やかさない。歳相応の対応をしてくれる。けれど、それが寂しいとは思わなかった。
周と要は違う。
声が似ていても。同じ仕草や優しい笑みが重なる事はない。
「あっ、大礼、金魚、金魚すくいやろうっ。」
要が金魚が入った水槽の前にしゃがみ込んで僕を呼ぶ。
思わず顔が強張る。
金魚すくいは周とやりたい。周とだけやりたい。
その思いが一瞬顔に現れてしまったのか、要は僕の顔を見て、にっこりと笑うと
「いや、いいよ。でも俺がやりたいから、大礼は見ていてね。」
そう言って腕まくりをした。
―――結果
「ごめん。もっと取れると思ったんだけど。俺、昔はすっごく金魚すくい得意だったんだ。」
「知ってるよ。要さん、いつもお土産に持ってきてくれたもんね。」
ふふ、と思い出し笑いをする。
今、僕の腕には金魚が3匹入ったビニール袋が下がっている。
赤い金魚が2匹、黒い金魚が1匹。
狭いながらもぶつかることなくスイスイと袋の中を泳いでいる。
「これ、本当にもらっていいの?」
「いいって。大体俺これから寮に帰るのに金魚持って電車には乗れないだろ。」
「確かに。」
「透子ちゃんにお土産ね。」
「はい、ありがとうございます。」
軽く頭を下げた。
要はよしよし、と下げた頭を撫でて笑った。




