6.寂しい金魚 ②
駅は人を吸い込んで、吐きだしてはまた吸い込んで通り過ぎて行く。
電車は何度か人を吐き出しては去って行った。
「遅いなぁ。」
約束の時間を過ぎても周は姿を現さない。
5分…10分……15分。
流石におかしいなと気付いた僕はここに来て初めて携帯電話を取り出した。
周から連絡が届いているかも知れない。
果たして、画面には周からのメッセージ。
「そっかぁ。遅れるのか。」
練習試合が終わった後もすんなり解散にはならなかったみたいだ。
相手の高校と合同練習が始まって、やっと練習終了になったって。
今から帰るから1時間……電車の乗り継ぎが悪いと2時間ぐらいかかってしまうらしい。
遅くなりそうだから先にお祭り楽しんで、なんて気軽な感じで書いてあって、僕は「そうじゃないよ」とポツリと呟いた。
僕は周と一緒に行きたかったんだ。『夏祭り』を楽しみにしていた訳じゃなく、『周と一緒に行く夏祭り』が楽しみだったんだ。
画面に映るメッセージは僕と周の心の距離みたいで胸が苦しくなる。
周りは連れ立って歩く人の群れ。高校生らしき集団が楽しそうに歩いていく。
そう言えば、周も楽しそうだったな。
マネージャーに腕を取られて、何だか嬉しそうに見えた。
ああいう子、タイプだったのかな。
そう思ってハタと気付く。
そう言えば、周ってどんな子が好きなんだろう。
モテるのは知っている。
中学からよく告白されていたし、下校途中待ち伏せされていた事だってあった。
それがよく煩わしいと嘆いていたのは聞いていたけれど、実際好きな子の話なんて周から聞いたことがない。
あれ?何でかな?
僕は周の一番近くにいて、何でも知ってると思ってたけれど、それって勘違いなのかも?
今まで全く疑問に思わなかった事がここに来て酷く気になる。
そうだよ、どうして周の事何でも知ってるなんて思ったんだろう。
僕と周はほとんど一緒にいたけれど、それは周と僕の行動範囲が同じだったからに過ぎない。
小学校も中学校も一緒だったし、高校も一緒。
家は近いし親同士も仲が良い。
世間一般の定義で言えば『幼馴染み』っていう関係で僕たちは血の繋がらない兄弟みたいに気安い関係だ。
だからかな。周の事は何でも分かると思ってた。食べ物だって、何が好きで何が嫌いかも全部知ってるなんて勘違いしていた。
昔は食べられなかったピーマンも、今じゃ好きだって言っている。
甘いお菓子は変わらず好きでも何でも良いって訳じゃない。
好き嫌いは変化して、考え方だって感じ方だって変わっていくんだ。
だったら、昔は苦手だった事が今は平気になる事だって沢山あるだろう。
告白されるのだって面倒だって思っていたのが、不意に目の前の女子が優しくて可愛い存在だって気付いてもおかしい事なんかじゃないんだ。
そう気付いたら、怖くなった。
今まで僕がいたその場所が違う誰かのモノになってしまうかも知れないって分かったから。
ずっと周と一緒がいい。ずっと傍にいたい。
だって、僕は周が好きだから。
ずっとずっと前から好きだから。
今さら気付いた想いに胸が潰れそうだった。どうして周はここにいないんだろう。僕の隣は周だって決まっているのに…。
「お待たせっ」
隣で僕と同じように待ち合わせていた男の人に浴衣を着た女の人が駆け寄ってきた。2人は微笑み合うと肩を並べて歩き去っていく。その幸せそうな様子に無意識に言葉が漏れた。
「いいなぁ…。」
徐々に薄暗くなってくる街並みに街灯が灯りだして、僕の顔もほんのりと照らされた。
「あれ、大礼か?お前、一人か。」
驚いて顔を上げると、そこには久しぶりに見る顔があった。
「…………要さん。」
僕に声を掛けたのは、周の兄、要だった。




