『蜂』
腰が結構治ってきました。
皆様も気をつけましょう。
*
「いらっしゃい、何見に来たんだい?」
「ん?違う違う、買いに来たんじゃ無いですよ。ギルドまで教えてくれませんか?最近来たばっかりなので」
なっ!?符丁の2段階目も一字違わず一致している。
一般人、つまり探索者と裏の住人以外はここらに近寄らない。ごく稀に本当に迷い込んだ人も存在するが、もっと怯えている。
目の前の見るからに無害な少年はそのような雰囲気がない。
コイツが例の組織の使いなのか?
困惑したまま最後の符丁を確かめる。
「とっておきを見ていって下さい」
「見たら道教えて貰えますか?なら見るだけですよ」
マジかよ….こんな少年があの組織の使いなのかよ。
裏の世界とは思えない風貌。
もし裏の世界で生きているならば隠しきれないオーラがある。
人は見かけによらずと言われるが、何処からどう見ても使いとは思えない。だが頭の指示に背く訳にはいかない。
念の為、頭に確認するしかない。
「少々お待ち下さい、確認を取りますので」
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なんか受け答えしたら血相を変えて下がっていっちゃった。
どうしたんだろう?
*
部下が慌ただしく駆け入って来る。
「そんなに慌ててどうした」
「頭、符丁は全て一致です。でも…」
「でも何だ!符丁が一致したら連れて来いと言っただろ!あっちはデカい組織なんだぞ!」
この取引が成功すれば、我ら『蜂』は更に大きくなる事が出来るだろう。
しかし、万が一機嫌を損ねた場合、こちらが潰されかねん。
苦労をしてここまで大きくしてきた『蜂』の未来が掛かっていると言っても過言ではない仕事を前にして、力が入りすぎてしまった。
少し経った後、部下を怒鳴ってしまった事を後悔した。
使いと思われる少年を見ると、自分でも裏の者とは思えかった。
覇気のない雰囲気、力に自信が無さそうな仕草、それでいて瞳の奥は光に包まれている。
その容貌に驚愕するが、表に出さないように案内を始める。
*
いかにもチンピラっぽい男の先導で長い階段を降りる。
降りた先の数十人に囲まれたチンピラのボスのみたいな屈強な男の前まで案内された。
ボスと呼ぶ事にした男に頭を下げられ、風貌に似つかない丁寧な言葉遣いで接客を始められる。
「ようこそいらっしゃいました。ご希望はどんなのでございますか?」
んー?ここ所謂レンタル屋みたいな所かな?
王都には探索者や人を数時間から借りられる会社、通称レンタル屋というものもあると聞いた事がある。
申し訳ないけど道を知りたいだけなんだよな。
しかも悪魔の聖騎士は人員は間違いなく足りてるし。
さっさと断って帰ろ。
「申し訳ないですけど用はないです」
「なっなに!?」
ボスを始めとした大勢や人達の血の気が引いていく。
中には意識を失い、倒れた人も出た。
えっ!?僕なんかやっちゃいましたかね!?何もやってないよね?心配になってきた。なんかごめん、一応謝っておきます。
「ウチにはDランクまでですが探索者も居ます。それに本来は割り増しで頂く王都外でのオプションも無料に致します。それでどうでしょうか?」
必死に熱く語るボス。
うーん、サービスは嬉しいけど王都外オプションって何?現地集合って事かな?
それにDランクまでだと弱いよな。
リリスは一応Dランクだけど戦闘職じゃないし、他の3人はBランクだからな。
それとなく断ろう。帰りたいし。
あとこの人、何でこんなに必死なんだろう。
「やっぱりウチには不要です。またの機会に」
「いやいや、返答はゆっくり考えてからでも。割引も致します」
必死に止めてくるボス達。
怠いな。早く帰りたい。しつこい男は嫌われますよ。
「分かりました。少し考えておきます」
苛立つ気持ちを抑えつつ、あくまでも丁寧に返す。
「ありがとうございます。ご返答はいつでもお待ちしております」
少しホッとした顔のボス。
良かった、引き下がってくれた。
あっ、そういえば道聞かなきゃ。その為に来たんだった。
「聞きたいことがあるんですけど。大通りまでの道、教えて頂けませんか?」
「勿論でございます」
道案内通り進むと見覚えのある大通りに出た。
早く帰らなきゃ。
*
「クソッ、何がいけなかった」
客が去った後に机を叩く。
机は拳が命中したところからバキバキに壊れる。
事前に聞いていた通りの要望は用意していた。
「またの機会に」のまたの機会は恐らくここが潰される時だろう。
それだけは回避したい。
『蜂』は人数は多いが、全員が全員戦える訳ではない。情報、誘拐、経理などの専門の分野を置いて大きくしてきた。
このままでは『蜂』は潰される。
リスクは高いが背に腹はかえられぬ。
「お前ら!気合い入れろ!今以上の商品を今日中に手に入れるぞ!」
周りから「オー!」という声に囲まれる。
絶対に見返してやる。
頭の強い決意と共にこれまで安全第一で慎重で狡猾だった『蜂』が大きく動き出す。




