『Hell side 7-8 お見送り』
『Hell side 7-8 お見送り』
温泉に浸かりながら
「倫理と哲学……」
布団に横になって
「倫理と哲学……」
朝起きて
「倫理と哲学……」
三弥栄は人生で「倫理と哲学」を意識したことがない。学んだこともない。どういう時に、何に対して使うのかも知らない。
朝風呂の帰り、女将に挨拶をしてすれ違いかけたところで振り返り、声をかけた。
「あの、すいません、昨日言ってた、倫理と哲学ってどういうことですか?」
女将が動きを止める。
振り返って微笑むと、顔を近づけて耳元で囁く。
「誰にもうんこ踏ませないってことですよ」
囁いて、残りを吐息にした。
温泉地CTは、三弥栄の話しかけに本の意思を持って答えてくれる。
「あっ、そういうこと!?」
三弥栄は吐息に身を震わせながら「倫理と哲学」を、一所懸命仕事をすることだと理解した。
三弥栄の「倫理と哲学」への理解は浅いが、行動が本質に届いている。
The Bookは、三弥栄の姿勢に巡る本質を、「倫理と哲学の言葉」と認識して「月の器」としていた。
ホテル三弥栄別館 月 直通エスカレーター「天国への階段」前。温泉で体調の整った7人が揃う。
ちなみに、食事は温泉地にはない。持参の物資だ。
「いよいよね」
最終目的地「月」への到達を前に、珍しくH2Bが感慨にふける。
スーツのネクタイを締め直す虎太郎。
龍美は既にDDRとなって臨戦体勢にある。
先頭に三弥栄。天国への階段の一歩手前で先を見つめる。
ナイスガイとハリーが、エスカレーターの注意事項を見てぶつくさと言っている。
久慈がどしたの?と覗くと、二人は注意事項の一部を指さした。
「一人乗り」と書いてある。
正確には、「このエスカレーターは構造支配意識三弥栄オーナー専用の一人乗りです」と文言が起こしてある。
「三弥栄しか乗れないじゃん」久慈が大きめの声を出した。
H2Bと虎太郎と龍美が同時に「え?」と振り返る。
「じゃあ、戻ってくるまで温泉に浸かってればよいの?」ハリーが少し嬉しそうだ。
「三弥栄が戻ってくるかわからないし、物資は限られているし、ここから帰る方法も分かってないぞー」と久慈がハリーの様子に釘を刺す。
「世界を守れるのか、我々がそれぞれの世界へ帰ることができるのか、全て三弥栄任せってことね」龍美が状況を整理する。後はもう、全部三弥栄次第である。
「あれ?三弥栄君は?」
虎太郎が三弥栄を探すと、既に天国への階段を登って遠くにいた。「自分しか乗れないって気がついているのかな…」虎太郎が案ずる。
ナイスガイが天国への階段に乗り込もうとしたが弾かれる。
「おそらく、気がついていないな」
久慈が先走った三弥栄を見送る。
ナイスガイが天国への階段に乗り込もうとしてもう一度弾かれる。
部隊は、全てを背負った三弥栄へ言葉をかけることなく、その背を見送った。
やがて、天国への階段は閉じられて消えた。




