『Hell side 7-5 雨の中』
『Hell side 7-5 雨の中』
暴いた三弥栄は、端末であるギ・ワンへと意識を戻して自分の名前を音読する。
「三弥栄文楽」
素の自分に戻る三弥栄。CTから戻ることで受ける副作用的なダメージはない。
そして、第一層で上書きした「ゼロ」のステータスも継続している。
三弥栄の名の下に、その力がある。
三弥栄の意識介入で一時的に表層化したワン本体は、姿を消した。
「第二層の構造支配意識本体は断片化されてCTという端末に表層されるけど、意識の断片で動くCTギ・ワンは都度切り捨てられる。本体は隠れて実体を持たないんです」
そう言って、三弥栄は虎太郎にスーツを返した。
「隠れた本体を晒すのが自分の演奏で、龍美とドラミの火なら、実体がないっていう本体を消せるんだね」
スーツを受け取った虎太郎が確認する。
「ええ。そうでなければ、この後、ワン本体と接触できずに、ここで野垂れ死にます。
自分のハッキングなんだか同期なんだかは、1時間かけてこの程度。
本体の一時的な表層と、ご都合ご事情が分かっても、消すことはできません」
「そしたら、ワンを出してもらおうかな。最大火力で野焼きにしよう。兄さん、よろしく」
ドラミドレス龍美が羽織っていた白衣をH2Bに渡し、準備を始める。
「DDRは解かないの?」ハリーが龍美に聞く。
「ハリーちゃん、なんですか? DDR?」
「うん、ドラミドレス龍美。略してDDR」
「あー、いいね、DDR。ドラミが可愛いって言ってる」
物資にはジャージなどの着替えがあるが、龍美はDDRのままだ。
一度こうなってしまったからには、再度の装着変時にまた衣服を破って剥がされ、一瞬、全裸を晒してしまう。
もうこのまま、能力全開状態でいることを優先した。決して恥ずかしくない訳ではない。
虎太郎がスーツを着た。
「ピアニ化」
そう言って、また半裸でピアノに向かう。
智川虎太郎は智川龍美の実の兄である。ピアノを習ったことはない。
死節者となる前は鉄道会社勤務。メリアの社員食堂を利用していたら、対の死節者に呼ばれた。
対の死節者は、既に殉職。そんなこともよくある、ゼロ界におけるCTとの戦いの日常。
アイテムをもらって早五年。気付けば部隊長。
なぜか弾けちゃうピアノで、部隊を鼓舞し続けます。
それでは張り切って演奏していただきましょう。智川虎太郎さんで――「幻想即興曲」。
虎太郎の演奏が始まった。
虎太郎によるショパンの調べ。
青空に雨雲がかかる。
雨が降り注ぎ、光を屈折させて、隠れた構造のネットワークを晒す。
構造は晒されることを拒絶するように蠢くが、虎太郎は雨音にショパンの調べをのせ続ける。
龍美がネットワークを両手で掴む。直接触れたまま、DDRの最大火力を流し込む。
雨雲の下、張り巡らされた構造を、DDRが放った炎が疾走する。
虎太郎の演奏が火力をさらに高め、加速させていく。
第二層がファイヤーワークスと化す。
美しい炎の連鎖が拡がっていく。
雨の中、部隊は音と炎が起こす崩壊に魅了される。
ワンにはもう、会えないだろう。




