『7-2 決めポーズ』
『7-2 決めポーズ』
落下しながら龍美が早口で何か言っている。
「あの格好だけはホントに嫌だ。あの格好だけはホントに嫌だ。あの格好だけはホントに嫌だ!」
この場(自由落下)は、格好を嫌がっている場合ではない。
「もうダメっ、死にたくないし!!ドレス!!」
龍美が叫ぶ。
龍美の着ていた服が一瞬で弾け飛び、ブレスレットが衣服を形成。龍美が「それ」を纏う。
地上波で放送できるギリギリのコスチューム――“ドレス”。
ブレスレットの最終形態である。
自らをアラサー(27歳)と考えている龍美。死と引き換えになるほどのピンチに陥らないとこの格好にはならない。それほどの恥ずかしさだった。
ドラゴラミのような部分変化ではなく、コスチュームとしてドラミが龍美と融合することで、通常の左手ドラミとは桁違いのパワー、スピード、飛行能力を得て、爆発的な戦闘力を発揮する。
「見ないでー!!」と絶叫しながら、落ちていくバスを掴み、翼を広げて飛ぶ。
そして――落下を止め、バスを着地させた。
小型バスと言えど、5トン近くの重量がある。持って「飛ぶ」ことの意味を考えると、ドレスを纏った龍美の力がどれほどのものか想像に難しくない。
「ドレス」は着ていた服が台無しになるのも最悪なのである。第二層の青空の下、隠れる所などない。こうなると、恥ずかしがる方が恥ずかしさを増すので、龍美は背筋を伸ばして凛と佇んだ。見られたって、部隊の男どもだけだと開き直る。
部隊は全滅の危機を脱した。
数百メートルを形成した、八百万のギ・ワンが雪崩て来る。
―――
龍美は、普通だ。
家族から愛情を持って大事に育てられた。干渉を不自由だったと、冗談で言えるほどに。
それは普通ではなく「幸福」であると言える。普通である幸福がどうやって支えられているのか、働いて初めて理解する。守られていたと。
甘えていた訳ではない。レールから落ちないように示されて与えられた道を進んだ。ただそれは、仕事に通用する「技術」ではなかった。
インターンを共に過ごした同期が暫くして仕事を辞め、自らの命を絶った。同僚は決して甘えた訳ではない。甘えなくてはいけなかった。
生命は平気で生命を犠牲にする。「あのこ、自殺したんだ」龍美の感情がそこで止まっている。
龍美は閉じ込められ、それをさらに閉じ込めている自分に気が付く。気が付かないように目を逸らしていたのだ。自分を殺している自分がいる。
迷わず地獄へ道連れを通った。
龍美は自分の普通(常識)を壊したい。
龍美のアイテム、ブレスレット「ドラミ」は、閉じ込められた自分(龍美)を、閉じ込めている龍美(自分)から、根こそぎ解放する。
―――
「ドラミちゃん、あれをやるわよ」
「ええ、よくってよ」
ヘッドギアはドラミとのインターフェース。互いの意思をシンクロさせる。
バスを背にギ・ワン雪崩に対して前傾姿勢を取り、両腕を顔の前でクロスさせる。
「竜巻!!」と叫び、翼を片方ずつはためかせる。
「火旋風!!」と続けてさらに叫ぶ。
「グワアァァア!!」
両手から炎を放射して翼の起こした竜巻へ練り込んだ。
これを三回繰り返し、雪崩る八百万を焼き溶かした。
龍美は、身も心も解放され、カタルシスに浸る。気が付けば、ポージングをキメていた。




