『Hell side 6-7 構造支配意識』
『Hell side 6-7 構造支配意識』
ゼロが消えたのを確認後、虎太郎はエチュード4番の演奏を終え、ピアニ化を解いた。
ラクリモーサのときのような寝落ち自動演奏は起こらないが、同じ曲を再び弾くことはしばらくできない。時間を開ける必要がある。
カプースチンの「8つの演奏会用エチュード」は、残り5番から8番を残すのみとなっている。
構造支配意識・ゼロとの接触と戦闘で、部隊は著しく疲弊していた。
特に H2B のダメージが深い。
“事故った”(=死亡した)ナイスガイを電気椅子で蘇生した反動で、完全に気を失っている。
一度立て直したいが、このダンジョンの構造はまだ掴みきれていない。
支配者を失ったこの空間を、仮に第一層と呼ぶとしても、
この先に進むのは深層だか上層だか、上も下も分からず“月”に繋がる手がかりを見いだせない。
演奏が終わって、三弥栄の記憶が戻る。
「本でゼロを読み込んでたはず」と三弥栄は呟き、
本を取り出してページをめくった。
案の定、そこには――
構造支配意識・ゼロのページが出来上がっていた。
報告を行い、部隊で内容を確認する。
―――構造支配意識ゼロについて―――
プロデューサーJ(男性偶像生産者)とプロデューサーA(女性偶像生産者)で構成される、ドクターT(劣等感生成者)が整形して一皮剥けたのがゼロと書いてある。
偶像と劣等感を創り出して、夢と理想にすげ替え、恋愛を私情から至上化し、恋愛市場主義を構造化。心と体と金を永遠に搾取する。それを望む意識も、永遠と生成され、商品として消費する。
「自己紹介でそう言って歌って踊ってたよね」
龍美が、本人が言ってたまんまだと指摘する。
続きがある。
構造支配意識の発生した場所は、構造支配意識が環境を構築して司る。
「え、待って、それなんか凄くない?」
ハリーが期待する。
「だとしたら、どえらいチープな温泉宿劇場を環境としてイメージ具現化してたわけだ」虎太郎はゼロの感性を疑う。
「何れにしても、H2Bをゆっくり休ませる環境を構築する必要がある。三弥栄、この場を創り直してもらわにゃいかん」久慈も三弥栄が行う環境の更新に期待する。
過度の期待を感じる三弥栄。
「まずは、ゼロになれるか試さないとですよね、H2Bが動けないけど、もしもの時、大丈夫かな……」
連続熊問の時、血を出してぶっ倒れたのが頭をよぎり、不安を吐露する。他の記録されたCTと比べ、ゼロのステータス設定の異常な高さも、三弥栄の身体への負荷を予見させる。
「とりあえず、やってみます」
覚悟してゼロのページを読み上げる。
「構造支配意識ゼロ」
胸毛ワイルドセクシーな百鰐(大)の姿が、三弥栄の姿へと戻る。ゼロへ変態されない。
「こ、これは……」
三弥栄が戸惑っている。
「ページの情報が変わった」
部隊員が本のページを確認する。
「構造支配意識 三弥栄文楽」と書き換えられていた。
恋愛市場構造は消され、ステータスの異常な高さはそのままに、三弥栄は支配者となった。
「で、俺はどうしたらよいの?」と自問する。




