『Hell side 2-3 救護室』
『Hell side 2-3 救護室』
異常である。
人が人の形をした何かの首の骨を捻り折り、首折られた人が絶命してつぶつぶと湯気立って消えたように見える。肉体が蒸発した。
三弥栄は「こいつはやばい、こいつはやばい」と、エレベーターの中、隣で呻きながらヨダレを垂らして苦悶するナイスガイを見ないよう、向かないようにして固まっている。
「どうだ、三弥栄、凄い力だろ」
所長が嬉しそうだ。
「所長、結構痛くなってきたので先に良いですか?」
ナイスガイが苦痛を訴える。
「承知。センター、こちら久慈。内菅井負傷。先に救護室へ向かう」セキュリティセンターに無線を入れて三弥栄に指示する「三弥栄、肩を貸してやってくれ」
三弥栄は恐る恐るナイスガイに肩を貸す。三弥栄の首にナイスガイの威力的な腕が回る。先程、人の首をもぎった腕だ。逞しいなんてもんじゃない。
「あ、ありがとね」
ナイスガイは三弥栄へ感謝する。
酷い汗をかいている。
セキュリティセンター横の「救護室」
横引の扉をスライドさせると女医(30代後半)がいる。昨今ジェンダーには非常に気を使う世の中なのに、「女医」がクルクル回る椅子に座って、クルクルしている。「よーこそ、癒しの間へ」椅子の回転を止め、背もたれ側へ足を開いて、入口側を向き、乗ったまま後方へ椅子を転がす。壁に両手を広げて背ごとぶつかって立ち上がり、椅子をこちらへ蹴り転がした。
「いてっ!」
入口先頭の所長の脛に椅子がぶつかる。
「C'mon nice guy!!すぐ治す」
負傷状況は既に共有してあり、女医はベッドを指して寝かすよう促す。
三弥栄はベッドにナイスガイをゆっくりと寝かせる。
刹那、女医はパイプ椅子を持って振りかざす。
「いたいの、いたいの、ぶっ壊れろぉぉお!!」
患部へ向けて体重を乗せ全力でパイプ椅子を落とした。
OK牧場での決闘による負傷は通常の物理定数とも量子場とも違う、統一理論から掛け離れた集合無意識下の特別仕様。
女医は傷を壊して治す。
「ふぅ、スッキリした」
ナイスガイは憑き物が取れたように落ち着きを取り戻す。まるで何かを悟った賢者のようだ。
ぷるんぷるんだった脛は、まっすぐに接続され整っている。
ナイスガイは「じゃ、休憩いただきます」と言って歩いて救護室を出た。
「はじめまして、三弥栄。私は人見 瞳。主に牧場で負った傷の回復を担当しています。H2B(Hitomi Hitomi Beauty)と呼んで下さい」
「な、彼女の力だ」
所長がクルクル椅子をぶつけられた所を擦りながら言う。
H2Bは医師免許を持っておらず、女医のコスプレをした回復の力を得た者である。