『Hell side 4-8 皮肉』
『Hell side 4-8 皮肉』
虎太郎の勘が、ゼロ界脱出のキーマンとした人物(三弥栄)を自ら溶かしに行く演奏。一度始まってしまった演奏の集中を途切れさすには、重傷を負わせるしかない。それほどの没入。
「三弥栄ぁ!!お前の名前を言ってみろっ!!」
「三弥栄っ!名前、氏名!!フルネーム!!」
久慈とH2Bが叫ぶ。
虎太郎の演奏で二人の声は三弥栄に届かないが、本人は自覚している。
「み、みみ、三弥栄文楽」慌て震えて名を発し、元の姿に戻るがダメージは深刻。
溶けかけて骨の見えた右手他、同様の損傷ヶ所に向かって駆けつけ三発、ラクリモーサの三拍と重ねてH2Bがパイプ椅子を叩き込む。
熊問(小)に続き、ご本人に戻る際のPTSDを含むダメージに三弥栄は傷心しているが、CTの影響によるダメージは、H2BがPTSDを含めパイプ椅子で叩き治した。
H2Bが居なければ、三弥栄は既に三度死んでいる。
突然の状況に三弥栄の混乱は収まらない。
「何が起こっているんでしょうか!?」
虎太郎の能力であることはわかるのだが、「いっちょ、けっぱるか」と言って突然演奏を始めたがため、溶けかかった三弥栄は「あんまりじゃないか」と自身の扱いに憤る。
状況の説明を妹の龍美が担う。虎太郎の性格と能力は兄妹だからよく理解している。
「兄がご迷惑をお掛けしてすいません」
「えっ?」
演奏で龍美の声が聞き取れない。手を耳に当てる。
龍美は耳元で再度、「兄がすいません!!」と三弥栄に伝える。CTとなった三弥栄が溶けることに龍美自身も気が付かなかった。兄に悪気は無いと龍美が代わりに謝る。
龍美が一所懸命、耳元でしてくれた説明を纏めると、虎太郎のアイテムは「スーツ一式」だそうだ。
それは、スーツ上下とネクタイとシャツ。下着、ベルト、靴下、靴は含まれないらしい。
ネクタイは蝶ネクタイに、その他はグランドピアノへと変貌して、虎太郎を奏者として、奏でる音によって様々な効果をもたらす。
確かに、演奏する虎太郎はタンクトップとブリーフの下着にベルト、靴下と靴を履いて、蝶ネクタイを結ぶという珍妙な姿。
効果についてわかりやすく言うと「バフ」と「デバフ」だそうだ。
よって、虎太郎が演奏で弱めたCTを龍美のドラミが喰うというパターンが智川部隊の主戦術となっている。
「モーツァルト《レクイエム ニ短調 K.626》より『ラクリモーサ』」の効果は結界。音の波が届く範囲のCT(小)の発生を防いで溶かす。CT(大)を溶かすことは出来ないが範囲内では弱体化し、範囲外から範囲内への侵入を防ぐ。
結界の構築は他の演目によるバフ、デバフ効果よりも遥かに負担が大きい。
ラクリモーサの譜面の演奏を終えた虎太郎はそのまま寝落ちする。その後は自動演奏となって、虎太郎が起きるまでの間持続する。
三弥栄は龍美のアイテム「ブレスレット」の能力「龍身」についての説明も併せて受け、「喰われるってそういうことね」と腑に落ちた。虎太郎には溶かされかけ、龍美には喰われるかもしれず、今のところ三弥栄がCT(小)になった場合のリスク管理が非常に難しい。
部隊へのバフは、三弥栄へのデバフ。
アイロニーが過ぎて笑える。
結界を構築した虎太郎は起こさなければ10時間は確実に寝るので、その間を利用して部隊は休息をとる。
虎太郎が奏でる結界が、前哨基地を中心としたゼロ界サバイバルを可能とすることを三弥栄は理解した。
演奏を終えた虎太郎が肩を落として眠り、演奏が続く。




