『Hell side 4-7 調べ』
『Hell side 4-7 調べ』
「ど、どうっすか?」
百鰐(小)への変態を遂げ、三弥栄がまるで試着室から出てきたかのように感想を求める。
「三だ。三ってなってる」
龍美が肩を指差す。百鰐の肩に刻まれるはずの「百」が「三」になっていた。
熊問(小)のときと同じく、名前で区別される形に三弥栄は苦笑する。
「沢山湧くと、間違えるなこれは」
誤認の危険を指摘する虎太郎に対し、「ドラミは文字を読まずに食べちゃうと思う」と龍美がさらりと告げる。その能力をまだ知らない三弥栄はピンと来ないが、何かに喰われるかもしれないのかと眉をひそめる。
「結局、俺にはなれないのね」
本で小突かれ試されたナイスガイはコピーされた自分が見れないことを残念に思った。
「この状態でCTと戦えるのかね」
久慈が経験則から三弥栄の現状能力に疑問を呈する。
「CT(小)では力不足。能力の伸び代はCT(大)を本に取り込めるかどうかによりますね」と言って、虎太郎が戦略を示す。「三弥栄の戦力を上げるには、百鰐が(大)に成ったところを狙って捕獲するのがよいと思います」
この成長こそが閉じたゼロ界からの脱出の鍵になる――と虎太郎は踏んでいた。勘だ。
とりあえず、百鰐(小)への変態で新たに分かった本の仕組みは、
①接触(触れる程度で可)でCTの情報を読み取る
②音を鳴らして読み取りの終了を知らせる
③本の開けるページが増加
④ページを開き記載されたCTの名前を音読で変態
⑤三弥栄文楽と自分の名前を声に出すと戻る
⑥CT以外の能力は読み取れない(ナイスガイ検証)
⑦今後、CT(大)の強烈な力を読み込めるかが鍵
と、まとまった。
部隊は前哨基地へと到着。
ここにプレハブを建てた理由がわかる。
「川」だ。プレハブ群の向こうに、小さい川が流れる。
集合無意識下のゼロ界は現実の自然環境の写し。
地震も然り、何があってもおかしくはない。
飲めるかどうかは別として、生活水利用ができる。
三弥栄はゼロ界でのサバイバルに一縷の希望を見た。
プレハブの修繕と物資の確保を急ぐ。
崩れた壁を押し直し、ひしゃげた鉄骨を外しながら、部隊は小さな拠点を形にしていく。
百鰐(小)のパワーは(小)と言えど、三弥栄の地の力を遥かに凌駕。修繕作業に適しているので、そのままでいる。
ハリーは手足が浮腫んでると言って、マットを敷いて自重のピラティスを始めた。龍美も付き添う。
ナイスガイ中心に復旧作業は進み、飲水、食料、寝具リネン、簡易トイレ、衛生用品、照明、バッテリー、燃料、タバコ(久慈の能力用)の確保ができ、半壊のプレハブが持ち直した。
「でも、ここで寝たら全滅ですよね」と三弥栄が呟く。
前哨基地はCTに対して安全性に問題があると考えざるを得ない。
「だよね。そしたらいっちょ、けっぱるか……」虎太郎が何かを始めようとしている。
「ピアニ化」
虎太郎の着用する黒ネクタイが蝶ネクタイへと変わり、黒の上下スーツと白シャツがはだけて、白黒の鍵盤を織り成しながら、漆黒のグランドピアノへと変貌を遂げた。
半裸に蝶ネクタイの虎太郎がピアノの前に坐り、静かに鍵盤へ指を置いた。
「モーツァルト《レクイエム ニ短調 K.626》より『ラクリモーサ』」
厳かに演目を告げて調ぶ。
虎太郎の奏でる音の波が魂を鎮める。涙の日は祈りによる浄化。この調べに近づけるCTはいない。
前哨基地を鎮魂歌の結界が覆う。
「あれ?身体、溶けてる?」
百鰐(小)のままだった三弥栄が鎮魂に巻き込まれている。




