夢
暗闇の中、僕は一人っきり。
どこまで歩いても暗闇。
すぐにこれは夢だと分かった。
そんな中、目の前に映像がとんだように、いきなり眼鏡をかけたまだ若い白衣を着た僕の担任が出てきた。
「悩みを言ってごらん?」
唐突に、もう聞かないと思っていたいつも面談で聞かれる質問が飛んできた。
「なんで僕は生まれてきたんですか?」
「親の気まぐれだ」
なにかいつもと対応が違う。
「なんで僕は生きているんですか?」
「社会が無理やり生かしているからだ」
「なんで僕はこんなに勉強しているんですか?」
「社会の歯車になるためだ」
「なら僕はどこに向かっていけばいいんですか?」
「知らんよ、そんなこと。」
素っ気ないな。
「何もないんだったらとりあえず勉強して社会の歯車になれ」
それは僕が求めている答えじゃない。先生、ちゃんと答えて下さい。
「真面目に答えて下さい」
「真面目に答えろだと?
ハッ、甘えるな。自分で探せ。
上から降ってこないなら地面を這いつくばってでも探せ。
地面にもないなら穴を掘って探せ。
それでも見つからないなら・・・諦めな」
「もっと楽に見つからないんですか?」
「知るか。そんな方法があるならこんな仕事してねえよ」
いつもニコニコしているけど本当はこんなこと考えてたんだ。
「もういいか?俺は疲れてんだ。帰らせてもらうぞ」
「先生!!」
いかなり背を向けた先生に僕は久しぶりに大きな声を出して呼び止めた。
「なんだ?俺は早く帰りたい・・・」
「先生の夢はなんでした?」
僕の質問に先生は狐につままれたような顔をするとフッと笑った。
「忘れたよ、そんなもの」
いやあの顔は覚えているな。
「だけど一つだけ」
「え?」
「一つだけ人生の先輩からのアドバイスだ」
何だろう?
「とことん悩め。悩んで悩んで悩み抜け。
そうすれば後悔なんてしなくてすむ。俺みたいにな」
またこっちに背を向けて歩き出した。
「お前はそうはなるなよ」
片手を上げて去っていく、その先生の後ろ姿を僕は生まれて初めて『かっこいい』と思った。
それから五年後、僕は今、教卓の上に立っている。
先生は今はもういない。
卒業式の日、つまり夢で会った日に急死された。心筋梗塞だった。
僕は驚いたが、不思議と悲しくはなかった。
それは多分、またあの夢の中で会える気がしたからだと思う。
end