コロン、ブスのたまご
イラストはコロンさまよりいただきました
『おっぱいアイス』ともいうのですね、あれ、
玉井コロンちゃんは4歳。保育園の年中組に通う女の子です。
最近の子は、おうちで早くからことばを覚えるので、ひらがなだって、カタカナだって読めちゃいます。
でも、それで困っちゃうことも……
保育園から帰ったら、いつもママにおやつをもらいます。
「パパがねー、なんか懐かしいアイスクリームだっていうの、買ってあるよ」
ママのことばにコロンちゃんはわくわく!
「わーい! アイス? どんなの? どんなのー?」
冷凍庫からママが取り出した風船みたいなアイス──
その外袋に書いてある文字を、コロンちゃんは読んでしまいました。
『昔なつかしアイス コロンブスのたまご』
コロンちゃんがぽろぽろ泣きだしたので、ママはびっくり。
心配して声をかけました。
「ど、どうしたの、コロたん!?」
コロンちゃんは泣きながら、言いました。
「コロン、ブスなの……?」
それを聞いてママはすぐにどういうことかわかって、笑いだしました。
「ちがうちがう。コロンちゃんがブスなんじゃなくて、このアイスのなまえが『コロンブスのたまご』なの!」
「じゃ、コロンはブスのたまごなんだね?」
「そうじゃなくて!」
ママは笑いながら、そのことばの意味を教えようとします。
「コロンブスのたまごっていうのはね、発想の転換によく使われることばで……たとえばさ? たまごってふつう、立てようとしても立たないでしょ? でも……」
「ごまかさないで!」
コロンちゃんが大声を出しました。
「コロン、もう、ひらがなだってカタカナだって読めるんだよ? 難しいこといってごまかそうとしたってだめ! コロンはブスのたまごなんだ。……えーん、えーん」
ママは困ってしまいました。
ほんとうにコロンブスのたまごということばは別の意味なのに、コロンちゃんは聞く耳をもってくれません。
このままではコロンちゃんが傷ついてしまうし、アイスをおいしく食べてくれないだろうし、どうしましょう……
いいことを考えつきました。
「いい? コロたん」
それをさっそくコロンちゃんに教えます。
「たまごから産まれるといえば、ヒヨコでしょ? ヒヨコって、かわいい?」
コロンちゃんは涙のとまらない目をこすりながら、答えました。
「……かわいい」
「でも、ヒヨコが産まれるたまごも、じつはブスのたまごなのよ」
「ヒヨコはブスじゃないよー!」
「そのままほっといて産まれたら、ブスなヒヨコが産まれるの」
ママはしゃがみ込んで、コロンちゃんの顔を覗き込みながら、言いました。
「だからね、おかあさんがツルツルピカピカに磨くの。そうしたらね、かわいくなるの。ヒヨコさんがかわいいのは、おかあさんがツルツルピカピカしてるからなの」
「……そうなの?」
「うん!」
ママはにっこり笑いました。
「だからね、ママはコロたんのこと、いつもツルツルピカピカしてあげてるの。だからコロたんもヒヨコさんみたいにかわいいの」
「ツルツルピカピカ……?」
「してるでしょ? ほら、いつもこうやって……」
ママは両手でコロンちゃんのふくよかなほっぺたをはさみ、くるくると動かしました。
「ツルツル、ピカピカ!」
コロンちゃんが嬉しそうに笑いました。
そういえばママはいつもこうやって、ほっぺたをくるくるしてくれたり、頭をなでなでしてくれていました。
ママが今度は頭をなでなでしてくれながら、言います。
「ツルツル、ピカピカ」
コロンちゃんも真似して、笑顔で言いました。
「ツルツル、ピカピカ!」
「ふふっ。あとね、歯みがきもそうなんだよ? あれは自分でするツルツルピカピカなの」
「そうだったんだー!? じゃ、コロンがんばって歯みがきする!」
「そもそもね、ママはコロたんがおなかの中にいる時から、パパと一緒にいっつもツルツルピカピカしてたからね」
「コロンがたまごの時からってことー?」
「そーだよ。だからコロたん、こんなにかわいくなっちゃった」
「ありがとう、ママ!」
コロンちゃんの涙はすっかり止まって、かわいい笑顔が花開きました。
「じゃ、おやつにしよう。……これ、どうやって開けるのかしら」
「ツルツルピカピカするんじゃなーい?」
ママがはさみで風船のはしっこを切ると、そこからニュゥ〜と、ミルク味のアイスが出てきました。
コロンちゃんはそれをちゅっちゅと吸いながら、ご機嫌な笑顔。
ママはちょっと疲れた顔をして、でも幸せそうに微笑みました。