熱意と平穏
ノテルの工業地帯での戦闘と交渉を終え、アリシア、ケイン、そして新たに加わったレナの三人は、火星政府軍の輸送機でラルニアへと戻った。赤い空の下、輸送機がヘラス海沿岸の「アースポート」に着陸し、三人はリニアモーターカーに乗り換えて新居のある街へ向かった。アリシアはAK-47を肩に担ぎ、ケインはライフルを預け、レナは小さな荷物を抱えていた。
リニアの個室で、アリシアがレナに笑いかけた。
「レナ、お前、ノテルで大活躍だったな。13歳であんな交渉できるなんて、すごいよ。」
レナは照れくさそうに笑い、窓の外を見た。
「お姉ちゃんが戦っててくれたからだよ。私、ケイン兄ちゃんと一緒でなんとかできただけ。」
ケインが彼女の頭を軽く撫でた。
「俺たち三人なら無敵だろ。今度こそ、ラルニアで平穏に暮らそうぜ。」
リニアがラルニアの駅に到着し、三人は中世風の街並みを歩いて新居へ戻った。運河沿いのドーム型の家に足を踏み入れると、アリシアが荷物を下ろして大きく息をついた。
「やっと帰ってきた…ノテルは疲れたよ。レナ、お前も自分の部屋作れよ。雑貨なら市場で買ってやるからさ。」
レナが目を輝かせて頷いた。
「本当!?ありがとう、お姉ちゃん!私、平穏って初めてかも…。」
だが、帰宅直後、レナの様子がおかしくなった。荷物を解いていた彼女が突然ふらつき、額に手を当てて座り込んだ。アリシアが慌てて近づいた。
「おい、レナ!どうした!?」
「なんか…熱い。頭痛いかも…。」 レナは弱々しく呟き、顔が赤く染まっていた。
ケインが急いで体温計を取り出し、レナの額に当てた。38.5度を示す数字に、二人は顔を見合わせた。
「熱だ…38.5って結構高いぞ。ノテルで疲れすぎたのか?」 ケインが心配そうに言った。
アリシアはレナの肩を支え、ベッドに寝かせた。
「戦場で無理したんだろ。孤児で体弱いって言ってたし…。ケイン、水とタオル持ってきて!」
ケインがキッチンから水と冷たいタオルを持って戻ると、アリシアはレナの額にタオルを乗せ、優しく拭いた。レナは目を閉じ、荒い息を吐いていた。
「お姉ちゃん…ごめん、迷惑かけて…。」
「バカ、何だよそれ。迷惑なんてないよ。お前、家族みたいなもんだからさ。安静にしてろ。」 アリシアは笑い、レナの手を握った。
ケインが水をコップに注ぎ、レナに飲ませようとした。
「ほら、レナ、少し飲め。熱下がるまで俺たちで看病するからさ。」
レナは弱々しく頷き、水を少し飲んだ後、再び眠りに落ちた。アリシアとケインは彼女のそばに座り、看病を始めた。
夜が更ける中、アリシアはタオルを冷水で濡らして交換し、ケインは市場で買った薬を探してレナに飲ませた。二人は交代で彼女の様子を見守り、静かな時間を過ごした。アリシアがレナの額を拭きながら呟いた。
「ケイン…レナ見てると、私の妹思い出すよ。ヴェルトで生き別れた時、こんな風に看病してやりたかった…。」
ケインは彼女の横に座り、肩に手を置いた。
「分かるよ。俺も弟いた時、風邪引いたら看病してた。お前と俺で、レナを守ってやろうぜ。」
アリシアはケインの手の温かさに目を細め、頷いた。
「お前がいてくれるなら、なんでもできるよ。レナも…大事だよ。」
「俺もだ。アリシアとレナがいるなら、平穏だって守れるさ。」 ケインは笑い、彼女の肩を軽く叩いた。
夜が明ける頃、レナの熱が少し下がり、彼女は穏やかな寝息を立てていた。アリシアとケインは疲れた顔で互いを見合い、小さく笑った。ノテルの戦いを乗り越え、新しく増えた家族と共に、ラルニアでの平穏な生活がようやく形になりつつあった。




