一つの終着点
ノテルの工業地帯の廃墟で、アリシア、ケイン、レナの三人は一時的な休息を終え、再び戦場へと身を投じていた。アリシアはAK-47を手に、ケインはライフルを構え、レナはピストルを握り、政府軍の小隊と共に「ノテル・コミューン」の労働者軍と対峙していた。煙と銃声が響き、火星の赤い空が戦火に染まっていた。
三人が廃墟の陰を進んでいると、労働者軍の一隊が突然現れた。
「おい、あそこに政府の犬がいるぞ!」 労働者が叫び、銃を構えた。アリシアが素早く反応し、AK-47で応戦した。
「ケイン、レナ、隠れろ!徹底抗戦だ!」
ケインとレナも即座に身を低くし、廃材の陰から反撃した。弾丸が飛び交い、三人は息を合わせて労働者軍を押さえ込んだ。アリシアの正確な射撃とケインの援護、レナの素早い動きが合わさり、敵の一団を撃退した。
「まだ来る…!脱出するぞ!」 ケインが叫び、三人は工業地帯の外縁へと走った。労働者軍の追手が迫る中、アリシアが最後に一発撃ち、敵の足を止めた。息を切らしながら、三人はノテルの境界を越え、政府軍の待機地点にたどり着いた。
休息を取る中、政府軍の指揮官が三人を呼び出した。
「お前ら、よくやった。だが、戦闘だけじゃ解決しない。ケイン、レナ、お前たちにコミューンとの仲介を任せたい。」
ケインが驚いて顔を上げた。
「何!?俺とレナが?なんでだ?」
「お前は予備役で戦場を知ってる。レナはコミューン側にいた経験がある。お前らの関係なら、交渉の糸口になる。アリシアは戦闘支援で残れ。」 指揮官は冷静に説明した。
アリシアがケインの手を握り、頷いた。
「ケイン、レナならできるよ。私がここで援護する。お前ら、行ってこい。」
レナも小さく笑い、ピストルを仕舞った。
「ケイン兄ちゃんとなら、なんとかするよ。お姉ちゃん、待っててね。」
ケインは二人を見て、決意を固めた。
「分かった。アリシア、無茶すんなよ。レナ、行くぞ。」
ケインとレナは交渉役の政府軍士官と共に、労働者軍の本拠地へ向かった。ノテルの中心部、鉄鋼工場を改装した拠点は、バリケードと武装した労働者で固められていた。警戒する労働者たちの視線を浴びながら、二人は交渉の場に足を踏み入れた。
そこに現れたのは、労働者軍のリーダー格であるエリックだった。厳つい顔に傷跡が刻まれ、鉄鋼会社で元幹部だった男は、50代の貫禄を漂わせていた。彼はケインとレナを睨み、低い声で言った。
「政府の犬が何だ?話す価値もないぞ。」
ケインが一歩進み、冷静に答えた。
「俺はケイン。こっちはレナだ。戦う気はない。労働者の待遇改善を話し合いたい。」
レナも前に出て、労働者たちに訴えた。
「私、コミューンにいたよ。13歳で孤児だから、みんなの気持ち分かる。殺し合いじゃなく、解決したいんだ。」
エリックは二人を値踏みするように見つめ、やがて席に着いた。交渉は5時間近くに及び、緊張と疲労が三者を包んだ。ケインは労働者の低賃金と劣悪な環境を指摘し、レナは孤児としての経験を交えて彼らの苦しみを代弁した。エリックは当初頑なだったが、二人の真剣さに徐々に耳を傾けた。
「俺たちは自治が欲しい。連邦に縛られたくないんだ。」 エリックが要求を突きつけると、ケインが反論した。
「自治は火星全体の混乱を招く。だが、待遇改善と3倍増給なら連邦も譲歩できる。戦いをやめれば、みんなが生きられる。」
レナが付け加えた。
「エリックさん、私みたいに戦いたくない子もいるよ。増給があれば、働いている人も、その家族もみんなまともな暮らしができる。」
長い議論の末、エリックが重い息をつき、頷いた。
「…分かった。待遇改善と増給を確約するなら、自治要求は撤回する。だが、連邦が約束を破ったら、また戦うぞ。」
ケインが手を差し出し、エリックが握り返した。
「約束する。俺たちが連邦に伝える。」
交渉は成功し、ケインとレナは疲れ果てた顔で本拠地を後にした。政府軍の待機地点に戻ると、アリシアが二人を迎えた。
「ケイン、レナ、無事か!?どうだった?」
レナが笑い、ケインが肩をすくめた。
「なんとか成功したよ。待遇改善と増給で、自治は撤回だ。」
アリシアは安堵の息をつき、二人を抱き寄せた。
「よかった…すごいよ。私、戦ってるだけでよかったのかな。」
三人は笑い合い、ノテルの戦火が収まる兆しを見せていた。ケインとレナの交渉が成功し、アリシアの支えがあってこそだった。火星での試練は、新たな絆を深めていた。




