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新天地

火星のヘラス海沿岸にそびえる「アースポート」は、26世紀の技術が結集した巨大な宇宙港だった。「ステラ・ノヴァ号」が着陸し、アリシアとケインは乗客出口からターミナルに足を踏み入れた。ガラス張りのドームと移住者で賑わうホールが広がり、人工調整された空気が二人を迎えた。


「すげえ…これが火星のアースポートか。ヴェルトの駅とは大違いだな。」 アリシアはバックパックを背負い直し、目を輝かせて見回した。


「だろ?連邦の技術ってやっぱすごいよ。ここから新生活だ。」 ケインは笑い、荷物受け取りエリアへ導いた。


二人は空港の手荷物レーンのような場所で、預けていた荷物を受け取った。アリシアの小さなスーツケースとケインの荷物がベルトコンベアから流れ、二人で手に持った。


「お前、これだけ?軽いな。」 ケインが笑うと、アリシアは肩をすくめた。


「ヴェルトじゃ物持てなかったんだから、十分だよ。お前だって大して変わらないだろ。」


改札を抜け、二人は新居のある「ラルニア」へ向かうリニアモーターカーのプラットフォームへ進んだ。流線型の車両が停まり、二人は個室に案内された。柔らかいシートと大きな窓が備わり、火星の赤い大地が見渡せた。リニアが動き出すと、アリシアは窓に顔を押し付け、無邪気に興奮した。


「おい、ケイン!見てみ!すげえ速い!ヴェルトじゃ馬車しかなかったのに!」


「落ち着けよ。貧困国育ちでも、ここじゃ普通なんだから。」 ケインは笑い、彼女の隣に座った。


窓の外にヘラス海の青とドーム型の建物が流れ、アリシアは目を丸くした。


「こんな乗り物、夢みたいだよ!戦争中は走るだけで精一杯だったのに。お前、地球じゃ乗ったことある?」


「いや、金持ちしか乗れなかったよ。火星で初めてだ。お前が喜ぶなら、俺も嬉しいけどな。」 ケインは穏やかに笑った。


個室内に備えられたドリンクホルダーにジュースの缶があり、アリシアが目を輝かせて手に取った。


「おお、ジュースまである!ヴェルトじゃ水すら貴重だったのに!」 彼女は立て続けに2缶飲み干し、甘さに満足そうに笑った。ケインがからかった。


「お前、飲みすぎだろ。後で腹壊すぞ。」


「うるさい!せっかくの贅沢なんだから、飲むに決まってんだろ。」 アリシアは5缶目に手を伸ばし、ケインは苦笑した。


リニアが加速する中、二人は会話を続けた。


「火星でさ、何したい?私は海見てみたいよ。」 アリシアがジュースを飲みながら言った。


「俺は魚釣りたいな。ヘラス海で何か釣れたら、料理してやるよ。お前、魚好きだろ?」


「うん!ヴェルトじゃ魚なんていなかったから、楽しみだよ。お前、ほんと料理上手いよな。」 アリシアは笑い、ケインの肩を軽く叩いた。


だが、ジュースの飲みすぎのせいか、アリシアが急に腹を押さえた。


「やばい…お腹痛い…ちょっとトイレ行ってくる。」


「お前、言ったそばからだぞ!ほら、行ってこい。」

ケインは笑い、ドアを指さした。アリシアは慌ててトイレに駆け込み、数分後にスッキリした顔で戻ってきた。


「ふう…飲みすぎた。恥ずかしいから他の人には内緒にしてね。」


「分かった、分かった。次からは気をつけな。」 ケインは笑いを堪えた。


トイレから戻ったアリシアはシートに座り、窓の外を眺めた。疲れが溜まっていたのか、彼女の目が徐々に閉じ始めた。


「ケイン…ちょっと眠い…」 アリシアは呟き、ケインの肩に頭を預けた。


「おい、居眠りかよ。まあ、いいけどさ。寝ていいよ。」 ケインは彼女の頭を支え、静かに笑った。


アリシアの寝息が聞こえ始め、リニアが減速した時、アナウンスが流れた。


「次はラルニア、ラルニアでございます。北部方面線に乗り換えの方はこちらでお降りください。」


ケインがアリシアの肩を揺すり、起こした。


「おい、アリシア!着いたぞ、起きろ!」


「ん…もう着いたのか…?」 アリシアは目をこすりながら起き、窓の外を見た。ラルニアの駅と中世の様な家々が見え、彼女の眠気が一気に吹き飛んだ。


二人は荷物を手にプラットフォームに降り、駅を出た。火星の赤い空の下、ラルニアの街並みが広がっていた。アリシアは興奮を抑えきれず、ケインの手を握った。


「やっとだよ、私たちの家だ!」


「ああ。ヴェルトからここまで長かったな。これからだよ。」 ケインは笑顔で頷いた。


二人は新天地ラルニアへと歩き出し、火星での生活が始まるのを感じていた。

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