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新天地へ

火星へ向かうリゾート船「ステラ・ノヴァ号」の二等客室は、アリシアとケインにとって穏やかな休息の場だった。柔らかいベッドと大きな窓が備わり、宇宙の暗闇と星々が旅の背景を彩っていた。船内の乗客が少なく、静かな時間が流れていたその日、ケインはベッドに寝転がり、連邦が支給した簡易スマホを弄っていた。


「何だよ、このアプリ…26世紀のゲームってわけ分かんないな。」 ケインは画面をスクロールしながら呟き、宇宙船レースのスコアをチェックしていた。隣でアリシアは布団にくるまり、うとうとと眠りに落ちていた。戦争の緊張から解放された彼女の寝顔は、穏やかで無防備だった。


その時、船内に軽快なメロディが響き渡った。柔らかなチャイムの音が客室に流れ、アリシアの体がビクッと跳ねた。彼女は目を丸くして飛び起き、布団を蹴り飛ばしながらケインに詰め寄った。


「何!?何があった!?ケイン、何か来たのか!?」


「お、おい!落ち着けって!ただの放送だろ!」 ケインはスマホを落としそうになりながら、慌てて彼女をなだめた。


アリシアの心臓はまだドキドキと鳴っていた。ヴェルトでの戦争経験が、突然の音に過剰反応させていたのだ。だが、直後に船内放送のアナウンスが続き、二人の緊張が解けた。


「乗客の皆様へお知らせします。『ステラ・ノヴァ号』はまもなく火星ヘラス海沿岸に到着します。着陸まであと数分です。窓からの景色をお楽しみください。」


アリシアが目を瞬かせ、ケインを見た。


「え…火星?もう着くのか?」


「みたいだな。ほら、見てみろよ!」 ケインは笑いながら窓を指さし、アリシアを引っ張った。


二人はベッドから飛び降り、大きな窓に顔を寄せた。目の前に広がったのは、赤い大地と薄い大気が特徴的な火星の姿だった。ヘラス海沿岸の居住区が近づくにつれ、人工的に作られた海の青と、ドーム型の建物がぼんやりと見えてきた。アリシアの目が輝き、彼女は子供のようにはしゃぎ始めた。


「うわっ!すげえ!ケイン、見てみ!海だよ、海!ヴェルトじゃこんなのなかった!」


「本当だ!映像よりずっと綺麗だな。あのドーム、俺たちの新しい家になるのかもな!」

ケインも興奮を抑えきれず、窓に手を叩きつけた。


二人は顔を見合わせ、まるで子供のようにはしゃぎ声を上げた。アリシアがケインの腕をつかみ、窓を指さしながら叫んだ。


「ほら、あそこ!何か動いてる!あれ、移住者か!?」


「俺たちもすぐそこに立つんだぜ。やっと着いたんだ!」 ケインは笑い、アリシアの肩を軽く叩いた。


船が火星の大気圏に突入し、窓の外が赤と青のグラデーションで染まった。アリシアは目を離せず、無邪気な笑顔を浮かべた。


「お前とここまで来るなんて、戦争中は夢にも思わなかったよ。ケイン、ありがとうな。」


「何だよ、急に。俺だって、お前と一緒じゃなきゃこんなとこ来れなかったよ。」 ケインは照れくさそうに笑い、彼女の頭を軽く撫でた。


船内がわずかに揺れ、着陸態勢に入った。アナウンスが再び流れた。


「只今の時刻をもって『ステラ・ノヴァ号』は火星ヘラス海沿岸に着陸しました。乗客の皆様、お疲れ様でした。新天地での生活をお楽しみください。」


アリシアとケインは窓から離れ、荷物を手に持った。二人は客室を出て、乗客出口に向かいながら、まだ興奮冷めやらぬ様子で笑い合った。


「火星だよ、ケイン!やっと新しいスタートだ!」 アリシアが跳ねるように歩きながら言った。


「ああ。ヴェルトもエリダヌスも乗り越えてきたんだ。火星なら、なんでもできるさ。」 ケインは笑顔で頷いた。


出口の扉が開き、火星の薄い空気が二人を迎えた。目の前にはヘラス海の青と、移住者たちの姿が広がっていた。アリシアとケインは手を握り合い、新たな星での未来に胸を膨らませていた。

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