赤い星での出会い
26世紀、地球から遠く離れた外惑星「ヴェルト」。赤い土と薄い大気が広がるこの植民地は、かつて地球連邦の夢の新天地だったが、今は独立戦争の炎に包まれていた。連邦の支配に抗うナショナリストから銀河革命を掲げるコミュニスト、段階的な独立を主張するリベラリストなどが徒党を組むヴェルト独立連合軍と、それを抑え込もうとする連邦軍の戦闘が、3年目に突入していた。
アリシアはまだ13歳だった。連邦本土のような豊かで平和な国では、今頃平和な青春を謳歌しているであろう年齢である。彼女はヴェルト独立軍の少年兵として戦場を駆けていた。細い体に不釣り合いなAK-47を背負い、爆撃や銃撃でそこら中に弾痕が残り、コンクリの鉄骨が剥き出しになったビルの陰で息を潜めていた彼女は、一瞬の休息を求めてコンクリの瓦礫の裏にしゃがみ込んだ。戦闘の合間、誰もいないはずの場所で、彼女はズボンとパンツを下ろし、しゃがんで小便を足す。乾いた土がわずかに湿り、赤く乾いた地面に濃い小さな染みが広がる。その時だった。
「そこで何をしている!」
突如、鋭い声が闇を切り裂いた。
アリシアの心臓が跳ねた。彼女はズボンとパンツを引き上げ、反射的に身を強張らせる。抵抗する間もなく、冷たい鋼鉄の感触が顳顬に突きつけられた。コンクリートの壁に頭を押し付けた。目の前に立っていたのは、連邦軍の軍服を着た少年だった。
「動くな」
命令する声は若い。ただ、私と同い年とは思えないほど声が落ち着いている。少女は僅かに顔を上げた。そこにいたのは、自分とそう年齢の変わらない少年だった。軍服に身を包み、汗ばむ手で銃を握りしめている。
「武器を捨てろ」
少女は返事をせず、視線を巡らせた。だが、逃げ場はない。背後には壁、正面には銃を構えた少年。冷たいながら砂を含む夜風が肌を撫でる。
ため息をつくように、彼女はゆっくりと両手を組み、壁に寄りかかった。
心臓が激しく鼓動する中、彼女は冷静を装って唇を動かした。
「撃つなら撃て。連邦の飼い犬どもが何匹死のうと、私には関係ない。」
彼は一瞬、引き金を引く指に力を込めたが、すぐに動きを止めた。
(動揺している…)
自分を殺そうとする行為がかえって彼女の緊張を強くしているだけだと思った。そして、目の前の少女が、自分とさほど変わらない年齢だと気づいたからだ。連邦の訓練では「反乱兵は全員敵」と教えられていたが、彼女の鋭い瞳と震える手を見て、彼女を敵ではなく同じ子供だと思ったからだ。
「お前…何歳だ?」少年が思わず口にした。
言っておいた方が彼の身の為に思ったのだろう。
「……13。あんたの名前は?」
言われるがまま、少女は年齢を応え、壁を支えにして立ち上がる。
「俺はケイン。」
影の中で、二人の視線が交錯した。これが彼らの出会いだった——惑星ヴェルトの独立戦争の只中で。
豆知識
惑星名である「ヴェルト」はドイツ語で「世界」を意味する「ウェルト」から名前を取っている。