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5【悪役令嬢かも】

 王城の図書館で、私の指定席にいた男の子は左手の甲を見せながら名乗った。

「けんいち?まさか、はなざわけんいち?」

 すると彼は一瞬目を見開いたかと思うと、静かに泣き出した。


「あ、あの、ごめんなさい」

 閲覧室の周りを見て他人の視線を確認しながら、少し年上の男の子を泣かせてしまったことに慌てる。

「いいえ、大丈夫です。プリンセス。

 もしよろしければ私に左手を見せていただけますか?」


 でも、私の傍らには、王女の私に何かあってはいけないと、ばあやと護衛がいる。

「ここでは、見せられないです」

 思わず手袋の手を両方とも後ろに隠す。


  〈 フェルゼン ハルキア〉

 太一が買ってきてくれた乙女ゲームに出てくる、パッケージの中央を飾っていた攻略対象の名前だった。あのゲームのスチルより少し幼いけれど、確かにこの人だわ。確かにハンサムで、可愛いわ。

 彼の名前を聞いて、たった今やっと自分の事も分かった。私はあのパッケージの端っこに描かれていた、悪役令嬢だ。


「それに、私は貴方に酷いことをするかもしれないので、近づかない方が良いですわ」


 今度は私の方が泣きそう。


「大丈夫です、俺の元には太一もいるんですよ!」

 フェルゼンの放ったもう一人の名前に思わず身を乗り出してしまった。


「!本当ですか」

「だから、改めて絶対正式にご挨拶しますので!待っていてください」


「はい、わかりました。お待ちしております」


 フェルゼンは手を隠して固まっている私に近づいて、髪を一房取ってキスをすると、図書館を出て行ってしまった。

 髪にキスをするなんて、前はそんなことする人だったかしら。


 中身は健一かもしれないけれど、フェルゼンのキャラクターも居るんじゃない?


 私はフェルゼンが座っていた椅子に座ってぼうっとしていた。読書なんてできないわ。


 さっき名乗られたときに、それまでおぼろげに引っかかっていた設定や地名などの単語たちがすっきりと嵌った。

 やっぱり私は、乙女ゲームの悪役令嬢として転生したのだわ。


 太一がくれたゲームの他にネット小説なども読んでいた私は悟ってしまった。

 それまでは、異世界転生をして、よくある設定や名前だなとは思っていたが、確かにマリー ディアナはフェルゼン ハルキアの婚約者だった。でも、隣の国の王女だったからその国の情報は無いし、このディアナ王国の設定なんてなかったもの。


 どうりで、中世のヨーロッパ風の国なのに、公用語が日本語だったのね。日本のゲームだったから。


 しばらくして、夏になり、私は避暑地であるハルキア王国との国境の湖のほとりにある別荘で過ごしていた。この避暑地はハルキア王国とディアナ王国共同で運営していて、両国の交流地としても人気の観光地だった。


 ディアナ王家の別荘では父王がどうしても自分でしなければならない執務を持ってきて、王后の母と私と過ごしていた。王城では王太子の長兄が執務をしていた。


 そんなある日、とうとう先ぶれが別荘に来て、私はハルキア王国に呼ばれ、母と訪問することになってしまった。


 元々私たち近隣の国々の王族や上級貴族は、交流を広げる意味も兼ねて十歳になったらハルキア王国にある学園に入学することになっていた。


 今回は年の近いフェルゼン王子の妹や弟も一緒に、入学まで二年あるけれど、同級生になる貴族の子供たちと、顔合わせを兼ねた気軽な母子連れのパーティーに呼ばれたのだった。


 ハルキアの王宮のガーデンパーティ会場では、主催の王后が出迎えてくれた。


 ハルキア王后は、友人関係にあるらしく、ディアナ王后の母と親しげに挨拶をして話をしていた。十二年の間に、六人もの子供を産んだママとは思えない可愛らしくて素敵な女性だった。

「今日、このパーティーを主催したのはわたくしですけど、国王陛下がどうしてもマリー姫にお会いしたいとわがままを言ってまして、マリー姫一人だけではだめよと念を押してますの。だから、ディアナ王后と一緒に会ってやってくれませんか?」


 私は少し悩んで、母の顔を見る。

 でも母も王后なので、この国の国王陛下とも面識があるからか、

「ええ。もちろんいいわよ」

「じゃあ、私はまだこのパーティーを仕切らなければいけないから、フェルゼンに案内させるわね。

 フェルゼン!」

「はい、ようやく呼んでくださいましたね母上」

 ディアナ王后に呼ばれるまで、他の子供の特に女の子の相手をしたくないと、空気になっていた王子が出てきた。

「こんにちはフェルゼン王子。お久しぶりね」

「お久しぶりです、ディアナ王后陛下。

 そしてマリー姫、お会いしたかったです」

 そう言って、私の左手を取って手袋越しにキスをしてきた。


 だから、そんなキャラだった?


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