4【国王陛下】
私は、ピソーラ ハルキア。
このハルキア王国の国王を務めている。
「俺」の専門は政治なんかじゃなくて医療だったはずなのに、何故か一国の王をさせられている。させられているなんて表現したら、民に怒られるだろうから言わないがな。国民が怒ったら恐ろしいことを私は生まれる前から知っていた。なぜなら、前世の記憶があったから。前世では、社会の歴史の学習で攫っただけだが。
俺の一番初めの苗字は覚えてない。名前は太一だ。
常に小便臭かった児童施設にいて、ベビーベッドの隙間から投げ込まれる幼児のげんこつにさらされて泣いていたそうだ。あまり覚えていないが。
そんなある日、健一と豊子という夫婦が迎えに来てくれた。健一は俺の名前にも一の文字があるから本当の息子みたいだと言ってくれていた。
豊子は、結婚直後に女性特有の病で子供が出来ない体になったらしいが、どうしても子供が欲しいと、健一の勧めもあって一緒に里子を探しに来てくれたのだ。
しばらくお試しで暮らした後、正式に特別養子縁組をしてもらい、二人の息子になる事が出来たのだ。
書類だけの繋がりだったかもしれないけど、両親はきっと実子以上に愛情を注いで俺を育ててくれた。
結局母さんは俺が二十歳の時に病気が再発して亡くなり、それから二十年ほどたってから父さんも病気で亡くなった。俺はそれなりに長生きをしたけれど、結婚はせず独身のまま死んだのだ。自分でグループ老人ホームに入るまでずっと働いていたから孤独は感じなかった。
しばらくして私は生まれ変わったことを自覚した。
しかも、母さんに闘病の気晴らしや励みにと俺が買ったゲームの世界に。
母さんが亡くなってからも、もともとゲームが好きだった父さんや俺が思い出したようにプレイしていた。乙女ゲームだったのに、母さんに逢える気がしてね。
さすがに何十年も後には機械も壊れていて、メーカーだってハードのモデルチェンジをしていたからあれきりだったけど。でも母との思い出もあって私として生まれ変わって少しずつ思い出してきていた。設定だけだが。
結局、私は攻略対象の父親の王だった。
ただ、一つ違うのは、母さんが病気になったけれどもまだ元気なうちにと、三人で行った旅行で訪れたハワイで入れたマリーゴールドのタトゥーとそっくりの紋章が同じ左手の甲にあったことだ。
医大の在学中に手の甲にタトゥーを入れてしまったので、医師になってからも仕事中は常にシリコンの手袋をしていた。まあ、同じ職業の父もしていたけどね。
さて、私はゲームの世界に転生したかもしれないが、まだ登場人物たちは殆ど生まれていないし、自分と同じ手の甲の紋章がある人を、わずかなプライベートを使って探していた。できれば、あの優しい母さんとまた出会いたかったのだ。
だが、私の元に来てくれたのは、息子として生まれた・・・父さんだった。生まれる順番も違うし、立場もまあ、逆転してしまったが、父さんでも十分嬉しかったよ!将来攻略対象になるはずだから、すごく可愛いしね。前世も白衣の似合う、ナースに人気のイケメンドクターだったけど。
ただ、せっかく親として自分の考えた名前をつけたかったのに、どんなに違う名前を選ぼうとしても、誰が書こうとしても、出生届の羊皮紙にはゲームの名前に書き換えられてしまうのだった。ケンイチでももちろんダメだった。
フェルゼン ハルキア
しかし、彼も健一だった記憶を持っていた。
私は王后をとても愛していたから、母さんを探すのを健一に託そうと思った。もともと恋人だったらしいからね。赤い糸が父さんに繋がっているといいなと願いながら。
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