15【あれの病は二度目】
ハルキア王国の学園に、マリーに無理をさせて四年も飛び級で入学してもらった俺は、平民のトヨコと名乗っている彼女と、ケンイチとして、平民のためのクラスで毎日机を並べて充実した日々を過ごしていた。
まるで、青春が戻ってきたみたいで、このまま平民として幸せに一緒に暮らしていければもう何もいらないとさえ思っていた。だって、豊子がそこにいるんだから。
思えばディアナ王国の図書館で再開を果たした後しばらくは魂が抜けたようにぼうっとしていた。
図書館で初めて見かけた横顔、初めて聞いた声が可愛くて何度も思い出していた。
そして俺の左手の紋章を見た時の驚いた顔は、昔俺が文化教室で傘を貸そうと声を掛けた時の表情とあまりにもそっくりで、俺は彼女の中に確実に豊子を見出していた。
俺は、そのあと、自分がなんだか風邪のひきはじめのようにぼうっとしていて、今世の母である王后に心配されていた。
「まあ、フェルゼン、熱?ないわね。これから出るのかしら。大丈夫?」
凄く心配そうな顔で俺の額に手を当ててくれる。
「大丈夫ですよ母上。何もありません」
おれはなんだかぼうっとしたまま母に答えていた。
「でもなんだか、顔が赤いわよ」
「本当に大丈夫です、これは病気じゃないんです」
そう、疾患ではない。俺には心当たりがある。
あの後、部屋の花瓶にキンセンカの花を生けられていただけで、
しまいには食卓に朱色っぽいトマトが出るだけで、
その色を見るだけで涙が出そうになった。
「王后よ、あれは恋の病だなんだ」
こら、太一、ばらすんじゃねえよ。
「そうなんです、母上。参ったな、初めてじゃないのに」
「フェルゼンは攻めるタイプなんだろう?私も早くあの子を迎えたいから、早く動いてほしい。勿論、協力するから」
「では、父上、腕の良い宝飾品の細工師を」
「えーそれは早すぎない?」
「大丈夫だ父上」
おれはさっそくあのデザインを思い出そうと目をつぶる。
「しょうがないなー。
では、お茶会開いてくれないか?子供達も参加できるような」
そう、母上にお願いしてくれる。
「はい、もちろんですよ」
「それで、近くへ避暑に来てるディアナ国の王妃とマリー王女を招待しておくれ」
その父上の言葉で、また微熱が出そうなことを自覚する。
「まあまあ、そうなのですね」
う・・・女性は鋭いな、こういう事には。
「私も早く会いたいから」
そっちもか!
そして、マリーの四年もの飛び級入学に向けて、何度もディアナ王国の図書館に通ったり、合間に冒険者の依頼を一緒にこなしたりもした。もともと、平民として初等部に在籍していたので、家業を手伝わなきゃいけないとかなんとか言いながらギリギリまで休みながら、マリーと勉強していた。
ある日、マリーがハルキア王国の魔術師団を訪れた。
初等部で最低限こなしておくための、魔法の適性や技術について確認するためだ。
師団長のローリーはちょっとメンヘラの入った攻略対象のやつだったから、不思議で少し中性的な美形だった。そんな奴をマリーに合わせるのは不安だったけど、俺が一緒に付いていたらいいよね。
果たして、マリーの属性は、ゲームの悪役令嬢の設定なんかと違って素晴らしいものだった。
まさか、聖女かもしれないなんて。
これはますます他の攻略対象から隔離して、大事にしないと。
あのゲームでは攻略対象はみんな、生徒は貴族の子息だし、教師も貴族の称号がある。本来の聖女は確か男爵当たりの養女として貴族のクラスに入学するはずだ。
だったら、俺と同じ平民クラスに在籍させればいいだろう。
政を司る夫婦としては、庶民感覚を養うことは大事だからな。うんうん。まあ、前世が庶民だから養う必要はないかもしれないけどな。
ゲームで悪役令嬢が断罪される卒業式のパーティーも貴族用だしな。まあマリーのドレス姿は見たいが、そっちは普通の王家主催の社交パーティーでエスコートするんだから問題ない。
あれ?ひょっとして俺がメンヘラっぽい?
いや、俺は一途なだけだ!
そして、晴れて中等部の俺は進級式。外部から入学する者は入学式をひとまとめに行う日、俺は校庭で制服姿のマリーを見つけた。
しかも懐かしいあの頃のおさげ姿で。おれはこみ上げてくる何かを押さえつけながら、彼女に声を掛けた。
「トヨコ、ハルキア学園にようこそ。中等部へ入学おめでとう」
そして、抑えきれずに抱きしめてしまった。
お星さま欲しいです♪
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