12【九歳の秋】
私は、プリンセス マリー ディアナ 。前世で遊んでいた乙女ゲームの悪役令嬢に転生して九年を迎えたところだ。
舞台の学園は十歳で初等部に入学し十三歳で中等部、十六歳で高等部に進み、十九歳で卒業する。そしてこの国は十八歳以上が成人である。
悪役令嬢になっていくのを阻止するため、設定と違う形で、私が入学してみようということになった。
年齢制限のない恋愛の乙女ゲームだから、私と同級生になるはずの主人公の聖女(ゲームの主人公)は四年後に十三歳で中等部に入学することになる。ちょうどこの私、悪役令嬢の同級生になるという事だ。まだ時間的な余裕があるので、色々な対策をすることにした。その時はフェルゼン殿下は十七歳。四つ上の先輩攻略対象となる。
ディアナ国王と王后である両親に私や隣のハルキア王国の王と第一王子との前世での関係を打ち明けた後すぐ、また前世の息子だったハルキア国王陛下がフェルゼン王子殿下お忍びで私たちの王都を訪ねて来られた。
前世の事までは説明したけれど、ゲームのことまではやめておこうという話になっていた。しかし、私がもしも悪役令嬢になってしまって、抗えない運命をたどる事だけは避けなければならないと、ゲームをやりこんでいた元親子三人は色々考えていたのだ。
その時ハルキア王(息子の太一だった)が、おもむろに私のお父様に言った。
「実は、私たちのこの、マリーゴールドの紋章には、未来を予知できるスキルがあるのです」
そう来たかー。
「なんと、そんなことが」
確認するように私の顔を見るお父様に、頷き返す。
「それで、三人とも共通して分かっているのは、マリー王女に苦難の未来が待っている事なのです。その回避の一つとして、息子のフェルゼンは慌てて婚約を申し込みました。
もう一つの対策として、マリー王女の入学を一年でも早めて、さらに飛び級で入学し、フェルゼンと同時に卒業すれば回避できるのではないかと思っているのです。最初に学業を優先して終わらせれば卒業してからゆっくり王太子妃教育に専念していただけます。
幸い、彼女はもともとの素質もありますし、ご両親の教育のたまもので、今すぐにでも早期入学しても十分ついていける様子。
学園には平民から特待生として、成績優秀なものを入学させる制度がありますので、その枠で一年早くさらに中等部から入学させれば、彼女の将来の苦難をさらに回避できるのではないかと考えているのです」
「平民として暮らすなんて、逆に楽しそうね」
お母様は意外と庶民派ですものね。冒険者だったし。
フェルゼンの婚約者でなく、特待生の平民として、ハルキア王家の庇護下で入学するのね。それって、後の聖女(ゲームの主人公)の枠じゃないの?
「災いの元となるものが四年後、マリー殿下の同級生として転入する未来を予知しています。しかしまだ罪を犯していませんし、今後犯すかどうかも分からないものをはじめから退けることも難しいのです」
もちろんこの提案は、早く私が学園に入学したらいいのにという、フェルゼン(健一)の思惑もあるだろうけど、王太子妃になる前に平民として暮らしておきたい〜。ギブミー自由だわ。
でも・・・
「でも陛下、わずか九歳で平民として暮らすってどうすればいいのかしら」
お母様が私の疑問を口にします。
それに対してフェルゼン殿下は
「二つ提案がございます。一つはマリー殿下が冒険者でもあるので、まだ子供で、冒険者になりたての者を訓練しながら保護するための宿舎が冒険者ギルドにはございます、そこはきっちり男女に住まいが分かれていて、冒険者としての生活はもちろん、大人になるまでのスキル。女性なら家事などですね、を身に着けるプログラムもあったりします。学園に通うのであればそちらを冒険者のプログラムからシフトすればいいのです。実際そういう学生もいます」
「そう言えば寄宿舎あるわね。こちらの王都の冒険者ギルドにもあるわ。王家からも補助金を出しているもの」
冒険者のお母様(二回目)は詳しいわね。
「うむ」
「もう一つは、見習い侍従・侍女制度。
王宮で行儀見習いの侍女として働きながら住む場所があり、そこから奨学制度の一環として学園に通わせるのです。もちろん姫を王宮で働かせることなんてしませんよ」
ほうほう、江戸時代の大奥の見習奉公のようなものかな。時代劇とかにあったわ。
でもどちらも私が利用するには不自然だわ。却下よ。
「お父様、今学園に在籍されている、ナルシオお兄様はどうされているのですか?」
「そうか、その手があるな!それに、あいつも来年中等部に上がるはずだ」
さすが、お父様、私の気持ちを汲んでくれたのね。
「そうだな、ナルシオ殿は俺の同級生だ、確かに彼はハルキア国の王都にあるディアナ家の屋敷に住まれているな」
この世界では、それぞれの王都や帝都に、他の交流のある国の屋敷が必ずある。それは、自国民のための大使館や領事館の役割もあって、特にハルキア国にある屋敷はみな、王族の宿舎となっているのだ。だからそこに詰める職員もいる。
ナルシオは二番目の王子で、私の四つ上のお兄様。フェルゼン殿下の同学年に在籍しているはず。確か彼も攻略対象者。
・・・チャラいキャラ担当だけどね。
「私はそこに、料理人や侍女の見習いとして入れないかしら」
冒険者の宿舎も捨てがたいけど、たぶんフェルゼン殿下のお妃としてのお稽古もあるかもしれないし。きっと忙しいわ。
「そうだな、一応ナルシオの隣に部屋を用意するつもりだったのだが」
「そんなことをされては、ナルシオ兄さまに恨まれてしまいます」
女の子と遊びにくくなっちゃって。
横で、フェルゼンがくすくす笑っている。やっぱり遊んでいるのね。
まだ十二歳だから、どの程度なのか分からないけど。ゲームでのキャラも知ってるものね。
「そうね、使用人のチーフ用の部屋が一つ空いているはずだからそこを使って。使用人の出口から出入りさせればいいだけの事。気晴らしに料理をするのは許可しましょう」
お母様、私でお兄様の素行を監視するのも計算に入れているのでは?
「それにあそこには今、ばあやの孫もいるから、私も安心だわ」
クミンおねえちゃんね。私が赤ん坊の時からお世話をしてくれているばあやの孫のクミンは、ナルシオ兄さまの侍女としてハルキア王国に出向中だ。彼女も学園に通いながら侍女をしているはず。
「そして、ミミも連れて行きなさい」
「はい、お母様」
「では、決まりということで」
そして、私は受験の猛勉強をしながら、または庶民生活に慣れるために勉強の合間の息抜きに、ディアナ王国で冒険者をしたりして一年を過ごした。もちろん魔法の訓練や入試の勉強はもちろん、入学後の飛び級のための予習もした。
フェルゼン殿下からプロポーズを受けてちょうど一年たったある日、学園の中等部への編入試を王宮のハルキア王国のプライベートなリビングで、ピソーラ国王陛下(太一)の膝の上に座らされて受けた。
「陛下。膝から降ろして」
「母さんそれ(陛下呼び)は無いよ、二人きりなのに」
「いやいや、そこにフェルゼン殿下(健一)がいるでしょ」
「太一はいつまでたっても甘えん坊だな」
そう、元親子の三人きりの密室で受けたのだった。
最近になって時々、こっそりこうやって花沢家の時間がある。
まあ、いやじゃないわよ全然。
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